2026.08.12 12:00

世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
中国がスカボロー礁実効支配を狙う意味
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、8月3日から9日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
熊本・TSMC(台湾の半導体製造企業)、正常の生産体制回復を公表(8月3日)。日本とメキシコの外相が会談、エネルギー協定強化で一致(3日)。中国「北戴河会議」開始か、新華社通信(3日)。米国ミシガン州、民主党予備選で急進左派候補が勝利(4日)。台湾が大規模軍事演習実施、ネット遮断想定訓練(5日)。パキスタン・トルコ・サウジが「防衛協定」締結(7日)。米国務省が中国による南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島)実効支配に向けた動きを「断固拒否」と声明公表(8日)、などです。
中国は8月に入り、一方的に領有権を主張するスカボロー礁の周辺で軍事演習を実施するなど、実効支配を目指す動きを活発化させています。
昨年(2025年)9月に設定した自然保護区の管理を口実にして、生態系を破壊する活動を禁じる新規則も公布したのです。
これらの中国の動向は、フィリピンへの対抗措置との見方が一般的です。フィリピン外務省は7月31日、スカボロー礁とその周辺海域に関する海図を7月29日に国連事務局に提出したと発表したのです。
スカボロー礁にフィリピンの領海基線を設定し、フィリピン領だと国際社会にアピールした形です。中国政府が2024年に同様の措置を発表。フィリピン側はそれに倣った格好です。
中国外務省はすぐさま声明を出し、フィリピン側の措置について「違法かつ無効だ」と主張し、「断固として受け入れない」と猛反発しています。
しかし中国側の主張は国際法の立場で認めることはできません。決着済みなのです。ハーグ(オランダ)の常設仲裁裁判所(PCA)は2016年7月12日、南シナ海における中国の主張を「国際法上の法的根拠がない」と判断。中国の「九段線」(中国政府が一方的に9本の線を引いて領有権を主張している)主張や歴史的権利の根拠を全面的に否定したのです。
中国による南シナ海の実効支配は、軍事・資源・経済・地政学・台湾戦略の五つが複合した国家戦略であり、単なる海洋進出ではありません。
南シナ海は台湾の南側に位置し、米軍が台湾支援に向かう際の主要海域であることから「核心的利益」と位置付けられているのです。
中国がこれまで、西沙諸島(パラセル諸島)・ウッディ島や南沙諸島(スプラトリー諸島)・ファイアリークロス礁などで人工島を造成し、滑走路・レーダー・ミサイル拠点を整備してきました。いわば、南シナ海の完全支配に向けて残された所がスカボロー礁であるとの位置付けです。
地図上で確認してもらえれば分かりますが、3点(三つの礁)を結ぶ線で描ける三角形は南シナ海全体を覆う面となるのです。
これにより、南シナ海全域を監視し、米軍艦艇の行動を制約することができ、米国に対する「A2/AD(接近阻止・領域拒否)」能力が増すのです。これが台湾統一に向けた欠かせない条件となります。
8月8日、米国務省は中国が南シナ海のスカボロー礁に「自然保護区」を設定し、権益を主張する動きを「断固として拒否する」との声明を出しました。
その声明の中で、米国は同盟国フィリピンと連帯し、自由で開かれたインド太平洋を推進すると強調しています。
中国の台湾統一ターゲット年である2027年に向かっての激しい応酬の一環と見るべきでしょう。
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