2026.07.22 17:00

共産主義の新しいカタチ 116
現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)
マルクスとフロイトとの融合を仲保
エーリッヒ・フロム(中)①
ベルリンのライヒの下で精神分析の研鑽を積んだフロムが、ホルクハイマーと出会うことで、具体的にホルクハイマーによる「学際的唯物論」プロジェクトの「目玉」となる研究、つまり「心理学的アプローチによる権威主義の研究」を任されることになります。
「マルクス主義研究週間」を主宰したフェリックス・ヴァイルをパトロンとしてユダヤ系左翼知識人を糾合し社会研究所が発足し、所長となったホルクハイマーは「学際的唯物論」を唱え、「社会科学」としてのマルクス主義の学問的横断化・体系化を企てました。
このため社会研究所の研究員らは各自専門部門をもっていました。この点について徳永恂氏は『フランクフルト学派の展開』で前回のチャート内容を次のように説明しています。
「1930年という年は、経済的には前年のウォール街に端を発した世界的大恐慌の波がドイツにも押し寄せ、それを反映してか、政治的には、ナチスが議会の第二党へ大躍進を遂げながらも……名実ともにホルクハイマーの指導下に移った社会研究所は、先の共同プロジェクト・プランに基づいて、哲学・経済学・社会心理学・文化論という四部門構成で出発した。……発足に当たってホルクハイマーが招致したのはフロムだけということになる」
フロムの労働者調査がプロジェクトの目玉に
このように、フロムが「フロイトとの融合」を企てるにあたり、当初から重要な役割を果たしました。
既述のスポンサーたるヴァイルが1929年11月、文部大臣に宛て、現在進行中の「主だった労働者と給与生活者の各層の物質的精神的状態」についての研究(フロムらによる「ドイツ労働者の意識調査」研究)は、「入手しうるすべての資料・記録だけでなく、包括的な独自のアンケート調査を行っており、その実施に当たっては指導的な労働組織と専門家の協力を得ている」旨を報告。フロムの携わった研究は社会研究所の文字通り「目玉」プロジェクトであったことがうかがえます。
このフロムを中心とした研究「ドイツ労働者の意識調査」とはどのようなものだったのでしょうか。
ここで登場するのが代表作『自由からの逃走』でも主要なテーマとなっている「権威主義的性格」です。フロム自身の設定した「仮説モデル」が、保守主義=「権威主義的・マゾヒズム的」、自由主義=「二面感情的」、社会主義=「性器的(ゲニタル)・革命的」という政治的イデオロギーが、それぞれ三つの性格類型に対応するものでした。
このうち「ファシズム=権威主義的性格」というテーゼが、やがてフランクフルト学派全体を貫く「イデオロギー」となったといえます。
フロムの「調査」の実態と恣意性
しかし、労働組合役員を通じラインラント地域の労働者に配られたアンケートの回収率は33%に過ぎず、無回答のものも散見されました。「量的な分析より質的な分析、記述的調査より解釈的調査」をめざしたフロムは、数字より「傾向」が重要―これは「科学」を標榜するはずが既にイデオロギーに固執した恣意(しい)性を示しているのです。
さて、このようにフランクフルト学派が労働者の意識調査から《権威と家族》とのテーマを導く上で対決したのがヘーゲル哲学でした。徳永恂著『フランクフルト学派の展開』によると、この《権威と家族》こそ、プラトンから19世紀まで「枢要な位置を占めていた」はずのテーマである「家族と国家」についての「偉大な伝統の最後」に立つヘーゲル哲学と格闘し批判を企てたものと見ています。
ではフロムとホルクハイマーはヘーゲル思想の何と格闘したのでしょうか。ヘーゲルにおいては、「家族」も「国家」も否定的なものとは見ておらず、キリスト教の精神的伝統と倫理道徳観念は、ヘーゲルの哲学理念と親和性がありました。
ヘーゲルは『法の哲学』で「個別的人格性を一体性において放棄して解放させる」と述べますが、言い換えると、結婚して家庭を持つことは「自己中心性」を放棄し、「より高次の一体性」を獲得できるとヘーゲルは「婚姻状態を倫理的義務」と考えたのです。
このような家族観・国家観を持つヘーゲルに対し、「学際的唯物論」を標榜するホルクハイマーとフロムはもちろん、これを「家父長的権威主義」と見なして否定しました。
このうち、《権威と家族》研究でのキーワードは「自発的服従」だ、と徳永氏は指摘します。そもそもこの概念が、「ファシズムの到来」を実現させた、と彼らは確信していました(フロムの調査当時はナチスの台頭はまだでした)。
しかしワイマール共和国の崩壊は以前から兆しが現れ、世界恐慌によって決定的な打撃となり、ドイツ経済は破綻したのです。

(続く)
★「思想新聞」2026年6月15日号より★
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