週刊ぶれら 63
新しいぶどう酒は新しい皮袋に

編集部

 イエス・キリストの言葉です。

 「だれも、新しいぶどう酒を古い皮袋に入れはしない。もしそんなことをしたら、その皮袋は張り裂け、酒は流れ出るし、皮袋もむだになる。だから、新しいぶどう酒は新しい皮袋に入れるべきである。そうすれば両方とも長もちがするであろう」(マタイによる福音書 第917節)

 当時、革で作られた皮袋は古くなると硬化し、伸縮性を失いました。そこに発酵途中の新しいぶどう酒を入れると、発酵ガスによる膨張に耐えきれず、皮袋は破裂し、中のぶどう酒も無駄になってしまったのです。

 このことは、まさに「パラダイムシフト」の本質を2000年以上も前に突いた、見事な比喩として捉えることができます。

 パラダイムシフト(Paradigm Shift)とは、ある時代や分野において当然と考えられていた「モノの見方」「考え方の規範(前提)」が、劇的に変化することを指します。
 もともとは科学史家のトーマス・クーン(19221996)が提唱した概念ですが、現代ではビジネスや社会構造の大転換を表す言葉として広く使われています。

 イエス様の言葉と、パラダイムシフトのメカニズムを重ね合わせることで、私たちが現代の変化にどう向き合うべきか、深い示唆を得ることができます。

 例えば、これを現代に置き換えて考えてみましょう。
 「AIという新技術(新しいぶどう酒)を、昭和・平成型の組織体制や評価制度(古い皮袋)にそのまま流し込もうとすれば、組織の崩壊や機能不全を招く」ということになります。

 ではなぜ、「古い皮袋」では駄目なのでしょうか。
 イエス様がこの言葉を発した背景には、当時の宗教的な「古い形式主義(律法主義)」に固執する人々への批判がありました。

 パラダイムシフトにおいても、全く同じ現象が起こります。
 古い皮袋を少し修理する程度、つまり部分的な修正では対応できないということです。パラダイムシフトは、既存のシステムの「改良」の次元ではなく、「前提そのものの刷新」を求めるからです。

 人間は本能的に、慣れ親しんだ「古い皮袋」の快適さを好みます。しかし時代の変化という「発酵プロセス」は止められないため、古い枠組みにしがみつくほど、破裂したときのダメージは大きくなります。

 「新しいぶどう酒は新しい皮袋に」という言葉から、私たちは現代のパラダイムシフトを生き抜くための二つの教訓を得ることができそうです。

 一つは、「器(マインドセット・制度)」を先に、あるいは同時に変える覚悟を持つということです。
 新しいテクノロジーや文化を取り入れるとき、私たちは「ツール(中身)」ばかりに目を奪われがちです。しかし本当に重要なのは、それを受け入れる私たちの思考の柔軟性や、社会のルール(皮袋)を新しく作り直すことではないでしょうか。

 二つ目は、古い皮袋の価値を否定するのではなく、「役割の終わり」を認めることです。
 古い皮袋も、かつて「古いぶどう酒」を入れていたときには立派に役立っていました。過去の常識やシステムが全て悪だったわけではなく、「新しい時代(ぶどう酒)には合わなくなった」という事実を客観的に受け入れ、感謝と共に手放す姿勢が求められます。

 イエス様の残した言葉は、単なる宗教的な教えを超えて、「変化の本質を見誤るな」という普遍的なシステム論です。現代という「新しいぶどう酒」が激しく発酵している時代において、私たち自身が硬化した「古い皮袋」になっていないか。常に自らの思考の伸縮性を保ち、新しい器を用意し続けることの重要性を、この言葉は今もなお鋭く私たちに問いかけています。

 『原理講論』の総序の締めくくりの部分にも、新しいパラダイムの登場を予見する内容が記されています。

 「時が至るに従って、一層深い真理の部分が継続して発表されることを信じ、それを切に待ち望むものである」(38ページ)

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