世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国、中朝首脳会談で北の「非核化」に触れず

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、68日から14日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 中朝首脳会談、平壌で開催(68日)。李在明(イ・ジェミョン)大統領、日韓ACSA(物品役務相互提供協定)締結は困難と表明(8日)。米中央軍が連日イランを攻撃、ヘリ撃墜の報復(10日)。米・アンソロピックがミュトス級AIの提供を停止(12日)、などです。

 6月8日、習近平主席が7年ぶりに訪朝し、平壌で首脳会談に臨みました。
 注目すべきは、会談後の双方の発表に朝鮮半島「非核化」への言及がなかったことです。
 北朝鮮の核戦力は、日本を含む北東アジアや世界の平和と安全に対する脅威であり、中国は朝鮮半島の非核化を外交の原則として掲げてきたはずでした。

 2019年、前回の訪朝時に習氏は、朝鮮半島の非核化実現の重要性を表明していました。それにもかかわらず、今回の発表内容から「非核化」の文言が消えたのです。その意味について考えておくべきでしょう。

 実は、昨年9月の金正恩(キム・ジョンウン)氏の訪中以降、中国は朝鮮半島の非核化に言及していないのです。ところが今年514日の米中首脳会談においては、米側が北朝鮮の「非核化」を「共通目標」として確認したと公表したのです。一方、中国側の発表にはその言及はありませんでした。

 中国は米国、北朝鮮両国に対して「気を使って」いることになります。非核化を巡る中国の黙認姿勢には、まず中朝関係の変化があります。
 北朝鮮がロシアに派兵したのは202410月中旬頃からでした。ロシアによるウクライナ軍事侵攻に対する支援として数千人規模を送り、その見返りとして核・ミサイル関連技術の移転を要請したのです。通常戦力の近代化に必要な装備も含まれていました。

 北朝鮮とロシアの関係強化は中国にとって不満でした。もともと両国間には根深い不信感が横たわっているのです。両国間に生じた、さらに深くなった溝を埋めるために、北朝鮮の非核化に触れずに関係改善の演出を行ったのです。

 このことは、ロシアではなく、中国こそが北朝鮮の「後ろ盾」であるとアピールすることになり、米朝会談を望む米国への外交カードにしたいとの思惑も感じられるのです。
 北朝鮮にとっても親密な対中関係の演出は、対米交渉を有利に展開する要件になります。

 北朝鮮は2024年9月、自国を「核保有国」と憲法で規定しました。最高人民会議で憲法を改正し、前文に明記したのです。3月に改正した憲法で、領土条項を新設し、統一関連の表現を削除しました。第2条に、「朝鮮民主主義人民共和国の領域は、北側で中華人民共和国、中国、ロシア連邦、南側で大韓民国と接する領土と、それに基づいて設定された領海および領空を含む」と明記されました。従来の憲法にあった統一、民族などの概念も削除しています。国家としての新たな次元で動き出しているのです。

 このたびの習氏訪朝の直前、北朝鮮メディアは核関連施設やミサイルを生産する軍需工場を金正恩氏が視察する様子を報じ、技術力の向上を中国に誇示したとみるべきでしょう。
 首脳会談を通じて中朝関係は北朝鮮側に利益の多い形で改善されたのです。



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