世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

韓国国防白書が「北朝鮮は敵」の記述削除

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は1月14日から20日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 韓国国防省、国防白書発表。「北朝鮮は敵」の記述削除(15日)。英国議会、EU(欧州連合)離脱協定案を否決(16日)。岩屋防衛相、シャナハン米国防長官代行と会談(17日)。政府、通常国会28日召集を伝達(18日)。米朝首脳会談(二度目)2月末開催が決定(18日)。トランプ政権発足2年目(20日)、などがありました。

 今回は、2年に一度の韓国国防白書の記述内容を扱います。韓国国防省は15日、文在寅政権では初めてとなる国防白書(2018年版)を発表しました。

 注目すべき点は二つです。
 一つは南北関係の「改善」を受けて、「北朝鮮は敵」とするこれまでの表記を削除したこと。もう一つは、前回版までは既述のあった「韓日両国は自由民主主義と市場経済の基本価値を共有している」という表現が削除されたことです。

 前回16年版には「北朝鮮の政権と北朝鮮軍はわれわれの敵だ」と明記され、「韓日両国は自由民主主義と市場経済の基本価値を共有していて東北アジア地域はもちろん世界の平和と繁栄のために共に協力していかなければならない隣国だ」と記されていました。

 日韓両国は今、「元徴用工訴訟」や海上自衛隊の哨戒機P1に対する火器管制レーダー照射の問題で主張がぶつかり、両国の関係は、国交正常化後の54年間で最も危険な状態にあると言えるでしょう。

 文政権は今、「正義のある国づくり」のために積弊(積み重なる誤り)の清算に取り組んでいます。
 民族統一への道を拓くために必要だというのですが、北朝鮮と、歴史観や世界観を共有しようとしているように見えます。反日、反米、主体思想(共産主義思想が土台となっている)の容認です。

 韓国は今、朝鮮半島の諸問題は南北と米中で解決できると考え、日本軽視が進んでいるかもしれません。北朝鮮の非核化を「甘く」見ているようです。その姿勢は、米国や独、英、仏などに北朝鮮への制裁緩和を働き掛けていることからも分かります。

 統一を優先して北朝鮮に対する妥協を重ねれば、核兵器と主体思想を持つ北朝鮮中心の朝鮮半島になってしまいます。日米韓の戦略的連携によって完全非核化を実現することが、中国の覇権拡大を阻止するためにも必須要件なのです。

 この危機を超えるために日韓両国の深慮と慎重な対応を期待したいと思います。