愛の知恵袋 32
大切な幼児期(Ⅱ)

(APTF『真の家庭』142号[8月]より)

関西心情教育研究所所長 林 信子

幼児期は模倣から感動へ

 私たち人間は、天と地を結ぶ唯一の直立二足歩行者です。高度な文化と、高邁(こうまい)な理想も持っています。

 しかし、動物の成育は1年足らず。人間ときたら、幼小中高大の長い教育期間を終えて、結婚し、自立生活に入るまでに20年以上かかります。最初の土台、幼児教育が不足していたら、より早く気付いて補修してほしい。

幼児期の五感の発達

1.聴覚——聴覚は胎内ですでに母胎のへその緒につながっている。母体がイライラすると、胎児は影響を受けて発育が悪くなる。母親はいつも平静で、言葉遣いもゆっくりと、お腹の赤ちゃんに話しかけてほしい。よい音楽と子守歌をきかせてあげよう。

2.触覚——幼児はスキンシップが大好き。心を落ち着かせる(幼児も大人も年寄りも、握手や肩を抱かれると心が和むのですよ)

3.臭覚——赤ちゃんは、ママのおっぱいの臭いが好き。安心して眠りにつきます。

4.視覚——美しいものを美しいと認識させる。青い空、白い雲、草花、キレイねえ、と大自然に感謝してみせる。

5.味覚——ミルクより母乳がいい。外食よりママの手料理がいい。家族の誕生日には、その子の一番好きな一品を作ってあげよう。子供も夫も生涯どこに行っても「おふくろの味は忘れない。4歳くらいから子供に手伝わせてもいい。家庭でも容器はなるべくシャレたのに入れて色彩豊かに盛りつけよう。

 幼い頃、どれだけ子供に五感を通して感動を与えられたかが大切です。

 10年くらい前に岩手県の盛岡で婦人会の方々にこの幼児期の五感教育の話をしました。若い一人の妊婦さんが質問しました。

 「先生、私は『感動』という言葉は知っていますが、感動したことがありません。生まれてくる子供に感動を教えるのは何歳ころでしょうか?」

 「感動したことがない?」

 「ハイ、自分で気付いたのは、大学卒業の時、同じクラブの仲間20人くらいで沖縄に行った時でした。広い海がめずらしく、見ている間に夕陽の海に変わり、太陽も空も海も岸の私たちも真っ赤。誰かが、『ギンギンギラギラ夕日が沈む』の歌を歌い、たっぷり20分は『すごいなあ』でした。私も赤いとは思いましたが、それだけです。その夜、友だちに『今までどんな時に感動した?』と聞きました。『うん、最近感動した本があったの。涙が出て止まらなかったわ。今日の夕陽も体がふるえたわ』でした。私も生まれてくる子には感動を教えたいのです」

 「感動は2歳くらいから、親が感動してみせるのよ。あなたのお母さんは?」

 「私は養女です。感動したことがない私がやってもいいですか?」

 「いいわよ。やってごらん。”キレイなお花、水をあげましょうね”って」

 ——3カ月後、彼女は女の子を出産しました。年賀状に満1歳の写真があり、2歳過ぎて電話がありました。「娘が、『おひな様が倒れて手が取れちゃったの、なおしてあげて』と泣きながら持ってきた——人形の悲しみが分かる子に育った!」と彼女の泣きながらの報告——。私も「よかったねえ」と受話器片手に泣きました。娘の感動によって、母親も感動を知った、二重の「よかった」でした。

感動は人間だけの特技

 感動とは人間だけの特技。人間は人間に育てられて、感動をもつ人間になる——。

 1920年、インドのカルカッタで狼に育てられた女の子2人が救出され、シング牧師夫妻のミドナプール孤児院で育てられました。1歳半のアマラは2歳前に尿毒症で死亡しましたが、人間の言葉に耳を傾け反応したという。8歳のカマラは昼は眠り、夜徘徊し、遠ぼえをあげ四つ足で走る。シング牧師夫人のスキンシップには応じたが生肉が好きで、17歳で亡くなるまで人間には戻れなかった——。

 人間は幼児期の6年間に、知情意、感動の体験をしなければ本当の人間になれないのです。