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日本人のこころ 79
『竹取物語』-日本最古の物語

(APTF『真の家庭』300号[202310月]より)

ジャーナリスト 高嶋 久

個人が創作した物語
 「かぐや姫」で知られている『竹取物語』は日本最古の物語で、紫式部は『源氏物語』の「絵合(えあわせ)」巻に、「物語の出(い)で来(き)はじめの租(おや)なる竹取の翁に…」と書いています。各地に伝わる神話や伝説ではなく、個人の創作力が生み出した作品で、成立は平安時代初期の9世紀末。作者はわかりませんが、男性であることは確かなようです。

 竹取物語のあらすじをたどりましょう。

 昔、あるところに竹細工をしている竹取の翁(おきな)がいました。ある時、翁が竹を切っていると竹が光っていたので近づくと、竹の筒の中にかわいい子供が座っていました。翁は連れて帰り、妻の媼(おうな)と共に育てます。それ以来、翁は竹の中に何度も黄金を見つけるようになり、次第に裕福になりました。

▲かぐや姫を籠に入れて育てる翁夫妻(ウィキペディアより)

 子供は3か月ほどで1213歳の大きさになり、成人の儀礼を行いました。大人に成長した娘は「なよ竹のかぐや姫」と名付けられ、その美しさから多くの男たちが妻にと望むようになります。

 5人の貴公子が熱心に通うので、翁が「女として生まれたからには男に嫁ぐのが幸せ、1人選んで結婚しては」と勧めるので、断り切れなくなったかぐや姫は、貴公子に難題を課します。それぞれに持ってくるよう求めたのは、仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の頸の玉、燕の子安貝で、どれもあるかないかもわからないようなものばかりです。あまりの難しさに一時は断念した5人ですが、やはりあきらめ切れず、知恵を絞り、大金を投じ、命がけで探しますが、いずれも失敗してしまいました。

 成功しかかったのは蓬莱の玉の枝を探す旅に出た皇子で、巧みな話しぶりに姫も本当だと信じ、「この方の言うことを聞くことになるのか」と胸が潰れる思いになるのですが、突然6人の男が現れ、玉の枝を作った工賃を払えと迫ったので、企みがばれてしまいます。落胆する皇子と喜ぶ姫が対照的に描かれ、作者の人間描写の腕がさえます。

 こうしたかぐや姫のうわさは帝にも届き、帝は使者を遣わしますが、姫は会おうとしません。帝は竹取の翁を招き、かぐや姫に宮仕えを求めますが、姫は拒絶。そこで帝は狩を口実に翁の家に行幸し、姿を現したかぐや姫を連れ帰ろうとしますが、突然、姫は消えて影のようになります。帝は姫を地上の人ではないと思ったのですが、あきらめ切れず、文を交わすようになります。

 やがて3年が経つと、かぐや姫は月を見上げて涙にくれるようになります。姫は老夫婦に、「私は月の世界の者なので、815日には迎えが来て月に帰らなければなりません」と打ち明けたのです。

 その日の夜中12時頃、あたりが急に明るくなり、空から月からの使者が雲に乗って降りてきました。翁や兵たちは姫を守ろうとしますが、力が入らず、戦意も失せてしまいました。

 とうとう隠れていた塗籠も開けられ、かぐや姫は媼の手を離れて出てきてしまいます。あまりに嘆き悲しむ翁たちを見て、姫は両親に着物と手紙を、帝には手紙に不死の薬を添え形見として渡しました。そして天の羽衣を着せられたかぐや姫は、地上での出来事をすべて忘れてしまい、月からの使者と共に天に帰って行ったのです。

 かぐや姫を失った翁と媼は、悲しみのあまり病の床に伏してしまいます。姫から手紙と不死の薬を贈られた帝は、天に一番近いという駿河の山の頂上で、手紙と薬を燃やすようにと命じました。

 その時、たくさんの兵士を引き連れて山に登ったことから、以後、その山を士(兵士)が富む山と不死(不死の薬)を掛けて「富士の山」と呼ぶようになり、不死の薬を焼いた煙は、今も雲の上まで立ち上っているのです。

日本人の物語の始まり
 上記の話から、ほぼ江戸時代まではかぐや姫が富士山の神とされていました。山梨県忍野村(おしのむら)にある浅間神社には、かぐや姫をモデルにしたと思われる富士山の女神像が祭られ、左右には竹取りの翁と媼と思われる像が一緒に置かれています。富士山の女神が木花開耶姫(このはなのさくやびめ)になったのは、『古事記』研究が進んだ江戸時代からで、富士山の周囲にある浅間神社の御祭神も木花開耶姫です。

 『竹取物語』は童話のようでもありますが、始まりから数々の事件、葛藤する男女、意外な結末がそろっているので、筋立てのしっかりした小説と言えます。作者が男性とされるのは、女性作家には見られない滑稽な描写が優れているからです。

 社会生活の中で日々の出来事や過去の記憶を語り継いできた私たちにとって、物語は自分自身の人生やこの世界を理解するツールと言えます。それは今も変わらず、人々は物語化することで社会を感じ、理解しているのです。そんな日本人の物語の始まりとして、『竹取物語』を味わってみてはいかがでしょう。

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