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ダーウィニズムを超えて 22

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
 生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
 そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。

統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著

(光言社・刊『ダーウィニズムを超えて科学の統一をめざして』〈2018520日初版発行〉より)

第二章 進化論を超えて─新たな展望

二)自然選択からデザインへ

 ダーウィンは、『種の起源』の中の、「変異の法則」の章で、「これまでときどき私は、変異が……偶然によって生じるものであるかのごとく語ってきた。もちろんこれはまったく不正確な表現なのだが、個別の変異が生じる原因について私たちがまったく何も知らないということを率直に認めるうえでは役に立つであろう」と述べている。

 そのようにダーウィンは、種の変異(進化)が何によってもたらされるか、何も知らないと告白していたのであった。それにもかかわらず、彼は、神に由来するデザインを否定し、盲目的で、意識のない、自然選択(自然淘汰)というプロセスによって、種は進化したと結論したのであった。

1)遺伝子ネットワークによる進化
 しかし、今や、進化論者たちも、自然選択は適者を選択するだけで、新しい形質を創造するものではないことに気づきつつある。スイス・チューリッヒ大学の進化生物学・環境研究所教授のアンドレアス・ワグナー(Andreas Wagner)もその一人である。

 ワグナーは、「[自然淘汰は]すでにあるものを選別するだけだ。ダーウィンは自然淘汰が新機軸をひろめることができるのに気づいたが、そもそもそうした新機軸がどこからやってくるのかは知らなかった(*21)」と言う。

 ワグナーによれば、「生物は新機軸(イノベーション)を生み出すことができる。イノベーション能をもっているのだ。それだけでなく、生物は忠実な遺伝を維持しつづけながら、新機軸を生み出すことができる(*22)」と言う。

 生命の代謝、タンパク質、遺伝子の発現調節回路において、可能な組み合わせ──イノベーションの潜在的な候補者──の数は、天文学的な膨大さであり、それをワグナーは超天文学的な蔵書を誇る「万有図書館」と言う(*23)。この万有図書館は、生物学的な図書館ではなくて、数学的な概念の図書館である。

 こうした図書館とそのテキストは、解剖学者が切り分け、私たちが素手で触ることができる筋肉、神経、結合組織とは根本的に異なっている。顕微鏡を通して見ることができる細胞小器官やX線結晶回折で明らかにされるDNAの構造とさえ似ていない。それらは概念、数学的な概念であって、心の眼をもってしか見ることができないものである(*24)。

 この図書館には天文学的な膨大さのイノベーションの潜在的な候補の数があり、例えば、万有タンパク質図書館においては、100個のアミノ酸から10130乗のタンパク質の可能性があるという(*25)。では、そのような天文学的な組み合わせの中から、どうやって、有意な生物の変異が選ばれたのであろうか。ワグナーは、「遺伝子型ネットワーク」によるものであると言う。遺伝子型ネットワークとは、「同じ意味を持つテキストをつないでいる隣接した通路のネットワーク(*26)」であると言う。そして遺伝子型ネットワークこそ、私たちが知っているような生命をつくりだした、さまざまな種類の新機軸(イノベーション)──代謝、調節、および高分子における──の共通の起源であると言う(*27)。

 それでは、無数のテキストの中から、いかにして遺伝子型ネットワークが形成されたと言うのであろうか? ワグナーによれば、遺伝子型ネットワークの形成は「ランダム・ウォーク(*28)」であり、「盲目的に集団で手探りする進化的な旅(*29)」であり、「見えざる手が握っている、特別な種類の自己組織化(*30)」である。そして「新機軸の核心にあるのは遺伝子型ネットワークの自己組織化する多次元的な織物であり、……生命の隠れたアーキテクチャなのである(*31)」と言う。

 さらに遺伝子型ネットワークは「広大なプラトン的王国」に住むと言う(*32)。そして「目に見える世界の下に隠れている基本的原理は、……プラトンの洞窟の影(*33)」のようなものであると言う。プラトン的王国とは、イデアの世界、すなわちロゴスの世界である。したがってワグナーの言う遺伝子型ネットワークとは、ロゴスの世界を、手探りしながら、自己組織化によって、形成されるものということである。

 ワグナーはイノベーションの潜在的な可能性が天文学的な膨大さであることを示したが、その中からいかにして最適な遺伝子型ネットワークが形成されるのか、盲目的に手探りするだけと言うだけで、明らかにすることはできなかった。ワグナー自身、「進化がどのようにしてある仕事に最適な発現コードを見つけるかは説明できない(*34)」と述べているのである。

 盲目的な手探りによって完成した生物を目指すのは不可能である。生物の完成した設計図を目指して、シナリオに従って、生命の代謝、タンパク質の合成、遺伝子の発現がなされていると見るべきである。しかしながらワグナーが、盲目的な探究であるとは言え、物質世界を超えて、プラトンの世界に足を踏み入れたのは、ロゴスに基づいた創造論へと一歩前進したと言えよう。


*21 アンドレアス・ワグナー、垂水雄二訳『進化の謎を数学で解く』文藝春秋、2015年、24頁。
*22 同上、25頁。
*23 同上、122頁。
*24 同上、293頁。
*25 同上、158頁。
*26 同上、136頁。
*27 同上、292頁。
*28 同上、130頁。
*29 同上、167頁。
*30 同上、228頁。
*31 同上、261頁。
*32 同上、171頁。
*33 同上、289頁。
*34 同上、14

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 次回は、「ホックス遺伝子」をお届けします。


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