夫婦愛を育む 27
恩渡し?

ナビゲーター:橘 幸世

 近年、過去に経験のないレベルの災害が次々と起こっています。7月の西日本豪雨も衝撃でした。ニュースでその様を見るたびに、胸が痛みました。

 その後に続く酷暑は被災者をさらに苦しめます。が、そんな中にあっても、各地から多くのボランティアが駆け付けています。その中には、3年前の茨城県豪雨で被災したかたがたもいました。40代くらいの男性が、「自分たちが被災した時お世話になったので、恩返しで(行きます)」と言っていました。

 その言葉を聞いて思い出したのが、「ペイ・フォワード」(原題:Pay It Forward)という2000年公開の映画です。

 この感動的な映画の主人公は、アルコール依存症の母と二人暮らしの少年トレバー(中学1年生)。社会科の先生が授業で、「もし自分の手で世界を変えたいと思ったら、何をする?」と生徒たちに問います。

 その問いに対して彼が考えたのは、「ペイ・フォワード」という発想でした。

写真はイメージです

 通常、人から恩を受けたら、その人に恩返し(ペイ・バック)しようとする。が、自分が受けた善意や思いやりを、その相手に返すのではなく、別の3人に渡そう。そうしたら、その3人がまた新たな3人に、・・・と善意の輪が広がっていく。

 ペイ・フォワード――恩をバトンのように「次に渡して」いったら、世界はより良い世界になるのではないか?

 彼はそう考え、自らも実践しようとします。母や知人友人の力になろうとしますが、現実はなかなかうまくいきません(相手あってのことですし、13歳の少年です)。

 「ペイ・フォワードは失敗だったのではないか」とトレバーは落胆します。けれど、彼の気付かない所でバトンは次々と受け渡され、人々を救っていたのでした。

 茨城から今回の被災地に駆け付けた人たちも、自分を助けてくれた人に直接恩を返すわけではないでしょう。これも、いわば「ペイ・フォワード」ではないでしょうか?
 ボランティアの輪は確実に日本に広がっていて、その姿は希望を与えてくれています。

 私たちが良く生きようとする上で、これを心に留めておいたら、うまくいかない時、支えになるのではないでしょうか? たとえ自分の善意が受け取られなくても、俯瞰(ふかん)的に見ればどこかで実っている。何人かのうち1人にでも何かが伝われば、そこからまた広がる。あるいは、それを見ていた人が、秘かに受け取ってくれるかもしれない。そう考えれば、傷つき過ぎず、失意せず、続けていけるかな、と思います。