世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国に異変? 注目の北戴河会議

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 7月30日から8月5日を振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。
 佐喜眞淳(さきま・あつし)・宜野湾市長が沖縄県知事選出馬表明(7月30日)。日本、ロシア両国が外務・防衛担当閣僚会議(2+2)開催(モスクワ)(31日)。中国、「北戴河(ほくたいが)会議」始まる(8月1日?)。ASEAN(東南アジア諸国連合)外相会議開催(2~4日)。ARF(ASEAN地域フォーラム)閣僚会議開催(4日~)、などです。

 今回は「北戴河会議」を取り上げます。毎年夏に開催される最重要会議の一つで、共産党の元老や現職常務委員(総書記を含む7人)が参加します。今年は特に注目されています。中国に「異変」が起こっているからです。

 一言でいえば、習近平政権の在り方全般を批判的に問うものといえます。異例の事態が重なって「異変」となります。異例の事態をいくつか挙げてみます。

 習近平主席の母校・精華大学の教授・許章潤氏がネット上で7月24日、名指しを避けつつも国政全般を批判しました。

 許氏が民間シンクタンクのサイトに掲載した論文のタイトルは「私たちの恐れと期待」。
 今年3月の憲法改正で「2期10年まで」だった国家主席任期が撤廃されたこと、個人崇拝をするような風潮の高まりに対して、直ちにやめなければならないこと、共産党系メディアの『神づくり』は極限に達している、などを指摘しています。そして天安門事件(1989年6月4日)も再評価の時であるとも述べています。

 異例の出来事はこれだけではありません。
 人民日報などの官製メディアの一面から習近平国会主席の名前が消える日が増え、北京や上海の歩道橋などに掲げられた「中国の夢」「偉大なる復興」といった習近平語録の横断幕も外され始めました。

 中でも重要なことは、約2カ月前から「中国製造(メイド・イン・チャイナ)2025戦略」という言葉が突然、ほとんど見られなくなったということです。

 「中国製造2025戦略」とは、中国政府が2015年に発表した、今後10年間の製造業発展のロードマップです。この戦略に対する国際社会、特に米国の評判は良くありませんでした。と言うよりも、米国は深刻な警戒心を抱いたのです。

 中国の官製ファンド(投資機関)が外国の高い技術力を持つ企業を買収し、中国に進出する企業の合弁会社に技術移転を強要するなどのやり方は、国際協定違反の疑いが指摘されるようになりました。米通商代表部(USTR)は、「政府主導の振興策が公正な競争を損なう」と批判しました。今の米中貿易戦争の背景の主要な原因です。

 北戴河会議は中国の対米政策に関する論議が焦点になるでしょう。中国国内の政権批判が一気に噴き出す可能性を秘めています。