青少年事情と教育を考える 24
政府の児童虐待緊急対策

ナビゲーター:中田 孝誠

 東京・目黒区で5歳の女の子が両親の虐待で死亡した事件を受けて、政府は先月(20187月)20日、児童虐待防止についての緊急対策を発表しました。
 ポイントは、主に次のような点です。

 12022年度までに児童福祉司を2000人増員し、現在の1.6倍の約5200人にする。

 2.関係機関の連携強化と児童相談所の権限強化。保護者が児童相談所職員の面会を拒否して子供の安全を確認できない場合、原則として立ち入り調査を行う。

 3.早期発見・早期予防のため、乳幼児健診を受けていなかったり、保育園や幼稚園に通っていない子供の情報を9月末までに集め、必要な支援を行う。

 もちろん、いずれも重要な取り組みです。ただ、これまでも指摘されてきたことであり、今後どこまで実行できるのかが問われるところです。

 特に、虐待の疑いがある家庭への立ち入り調査は現在も法的に可能ですが、児童相談所は将来の親子関係を考えて保護者との信頼関係を重視します。そのため、これまではあまり実施されませんでした。

 例えば、2015年度は虐待の相談対応件数が103,000件を超えていますが、立ち入り調査は85件でした。


写真はイメージです

 また、児童福祉司は児童相談所に所属し、虐待や育児相談、子供の非行相談などに対応します。国家資格ではなく、社会福祉士などの資格を持つ人、大学で心理学や教育学などを学んだ人を自治体が任命します。

 児童相談所の職員は1人で100件程度の相談を受け持つこともあると言われていますから、人員は増やすことは必要です。ただ、一気に2倍近くに増やし、機能する体制にするには、国と自治体が相応の時間と予算を投入する必要があります。

 一方で、今回の政府案は緊急対策として必要ですが、児童虐待がなぜここまで深刻なのかといった、より根本の原因を見つめた対策も重要だと思います。それは家族のつながりが弱くなっていること、あるいは親として未成熟であるといったことです。

 例えば、厚生労働省の社会保障審議会が児童虐待死の事例を分析し、「望まない妊娠」や、10代妊娠・出産の場合に虐待に及ぶ割合が高いと指摘しています。そのため、早期の妊娠のリスクを学ぶための包括的な性教育を求める意見も一部に出ています。

 ただ、性教育の内容は検討すべきです。10代妊娠を避けると言っても、それは避妊の知識というより、「性を大切にする=性関係を待つ」という教育であるべきではないでしょうか。
 愛情と性の価値、親になる準備を踏まえた、将来の幸福につながる教育でなければならないと思います。