世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

11回 米国、天安門事件の全容解明を求める

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 64日から610日を振り返ります。

 主な出来事を挙げてみます。
 中国・天安門事件から29年(64日)。米コロラド州のケーキ職人が信仰上の理由から同性カップルへのウェディングケーキ作りを拒否する是非が争われた裁判で、連邦最高裁がケーキ職人側の主張を支持する判決を下す(4日)。日米首脳会談(7日)。G7サミット(カナダ、シャルルボア)(8日)。日中両政府、自衛隊と中国軍の偶発的な衝突回避を目的とした「海空連絡メカニズム」の運用開始(8日)。上海協力機構(SCO)首脳会議(10日まで、青島で)、などがありました。

 天安門事件に対するトランプ政権の対応を取り上げてみます。
 64日、天安門事件から29年目を迎えました。天安門事件が起きたのは、198964日(日曜日)でした。胡耀邦元総書記の死をきっかけに民主化を要求する市民・学生約200万人が天安門に集結したのです。
 集会において「共産党一党独裁」を批判する声が上がった時、党は人民解放軍投入を決断したのです。およそ3000人以上の犠牲者(党の発表は300人前後)が出たといわれています。

 中国外務省の華春瑩副報道局長は定例記者会見で、事件について「80年代末の『政治風波』(政治の騒ぎ)は中国政府が結論を出している」と従来どおりの答弁をし、「反革命暴乱」と規定した事件の評価を見直す考えがないことを明らかにしています。第二期習近平政権下で、中国の人権状況は悪化の一途をたどっています。

 中国はこれまで、トランプ大統領がオバマ前大統領らに比べて人権問題への関心が薄いとの受け止めがありました。昨年119日の米中首脳会談で人権問題が取り上げられなかったことなどが、その理由です。
 しかし63日、ポンペオ米国務長官が声明を発表しました。
 劉暁波氏がノーベル賞授賞式に寄せたスピーチの「64日の霊はまだ生き続けている」の一節を引用して、中国政府に事件の「全容解明」と「投獄中の事件関係者の解放」を求めたのです。

 トランプ政権は今、対中強硬派で固められています。ポンペオ氏、ボルトン補佐官、ポッティンジャー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長、シュライバー国防次官補らです。
 米国は、貿易や南シナ海問題に加え、人権問題でも対中圧力を強める構えであり、かつてない強硬姿勢で臨んでいるのです。