2022.07.20 22:00
お父さんのまなざし 3
「ママここにいるよ」
男手ひとつで3人の娘を育てるお父さんの、愛あふれる子育てコラムを毎週水曜日配信(予定)でお届けします。
「子どもを見守ろう……」、そう決心したお父さんのまなざしは、家でも学校でも、真っすぐに子供たちに注がれています。
コラムニスト 徳永 誠
「ママここにいるよ」
当時、5歳だった三女がそう証ししてくれたのは、妻の満40歳の誕生会の場だった。
子どもたちの“ママ”、すなわち筆者の配偶者はすでに他界しているのだが、誕生日には、この世の人もあの世の人も、必ず年の分のろうそくを立てて祝うのがわが家の習わしになっている。
この日もイチゴのたくさんのったバースデーケーキを準備して食卓を整えた。そこに三女の一言である。
「ママここにいるよ」
さあ、それからが父から娘への尋問の始まり。
「本当に見えるの? どんな姿をしているの?」
「歩いているの? 浮いているの?」
「話はできるの? 表情は? 笑ったり怒ったりするの?」、エトセトラ、エトセトラ…。
いったい、いつからママの姿が見えるようになったのかと尋ねると、少々興奮気味の父の姿をよそ目に、娘はさらりと「初めから」だというではないか。
妻が亡くなった当時、まだ二歳にもなっていなかった三女にとって、“死”という概念は存在していなかったに違いない。
その日以来、娘をつかまえては、「ママは今どこにいるの?」「ママは今何しているの?」と、日に何度となく尋ねるのが父の日課となった。
三女の話によれば、ママの姿は半透明の状態のようで、人も物も素通りしてしまうのだという。
寝る時はパジャマ姿で、何とパパの隣に寝ているというではないか(当の本人には全くその自覚がなかったのに、である…)。
着替えもするのだそうで、時々ヘアスタイルも変わるのだという。
家族が外出するときには一緒に出かけることもあるそうで、ある日、家族みんなで外食に出かけた折、同行した妻の分の席がなく、「ママは先に帰ってしまったよ」という娘の話には、思わず苦笑してしまった。
「どうしたらパパにも見えるようになるかなあ、ママに聞いてみて」と、父は娘に伝言を託した。
「目を閉じたら見えるんだって」と、娘はママからのメッセージを伝えてくれた。
小学校に上がった頃から、三女がママを見ることはなくなった。
でも、家族は皆知っている。“お母さんのまなざし”もまた、いつも家族に向けられているということを。
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次回もお楽しみに!