コラム・週刊Blessed Life 225
2022年秋に向かって揺れる中国

新海 一朗

 世界が激動する中で、今回の安倍晋三元首相の死去は、日本にとっても世界にとっても、表現し難いほどの「大いなる損失」であったことは疑いようもありません。
 ここに、衷心からの哀悼の意を表したいと思います。

 さて、ウクライナ戦争が長期化の予想に傾く中、ウクライナ戦争の行方を注意深く見守っている中国が、実は大変な状況になりつつあることを知る必要があります。

 ウクライナとロシアに気を取られている間に、メディアは中国の状況を正確に伝えることを怠っているように見えます。
 今、中国は足元に火が付いている状態であると言っても過言ではありません。

 昨年(2021年)の9月に発覚した「恒大グループ」の巨大債務35兆円のニュースは、世界を驚愕(きょうがく)させました。
 香港証券取引所では、20219月、20221月、そして3月と、3回にわたって恒大グループの株取引を停止してきた経緯がありますが、事実上、巨額の債務を返済できないデフォルト(債務不履行)に陥っており、経営破綻の実質的な倒産と見られています。

 これは、何も恒大グループに限ったことではありません。中国の不動産業界に広がっている病状です。
 不動産事業で中国経済を押し上げてきた中国の発展そのものが、その不動産売買による「成長方程式」を失ってしまったのです。
 中国国民(利用者)と銀行(貸付)と不動産(物件販売)という三位一体の関係が、スムーズに流れなくなりました。

 不動産業界の破綻騒ぎは、ついに銀行の経営に甚大な影響を及ぼし、銀行破綻を引き起こす事態が生まれつつあります。

 7月10日、河南省の鄭州市で起きた事件は、預金の引き出しを停止した銀行の前で3,000人が集団抗議を行ったものですが、その銀行は中国人民銀行(中央銀行)というのですから、もはや、預金者が引き出しに来ても渡す金が中央銀行にはないというほどの金欠状態に中国の銀行は陥っているということです。

 次に、中国各都市のロックダウン(都市封鎖)という「ゼロコロナ」政策の影響が、非常に悪い結果を及ぼしています。

 中国は新型コロナ感染拡大を阻止するために、45都市のロックダウンを実施し、全人口の26.4%、37,000万人に行動制限をかけました。
 これによって、中国経済は急激な失速に陥っています。

 主要産業は、都市に集中しており、工場、生産基地といった重要施設は都市にありますから、その45都市がロックダウンされたら、労働者は会社に出向くこともできず、強力な外出禁止を食らって、家の中に監禁状態にされます。

 産業が稼働せず、経済がストップする状況になって、蓄えを切り崩しながら細々と生きる人民にとって、ロックダウンは地獄です。上海などでの人々の怒りは頂点に達しています。

 2022年の秋には、第20回中国共産党大会が開催されます。3期目の政権の安定的運営を狙う習近平党主席の思惑とは違って、個人崇拝的傾向を嫌う勢力もあり、経済不振による人々の生活悪化も、習政権を盤石なものとしてはいません。

 習近平の次の政権基盤となる李強(上海市党委員会書記)や応勇(前湖北省党委員会書記)らが、失策から昇格を外されるケースが相次いでおり、中国政治の人事力学は習近平に逆風となっています。

 これは抵抗勢力からのしっぺ返しです。経済の不振は1,000万人の大卒の失業問題とリンクしており、秋に向かって、中国政権は嵐の中で揺れる難破船のようになる恐れすら含んでいます。