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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

ウクライナ支援でNATO国防相会議開催

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、613日から19日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 中露国境に初の自動車橋が開通(13日)。習氏、プーチン氏に支持継続伝達・電話会談(15日)。NATO(北大西洋条約機構)国防相会議をベルギーのブリュッセルで開催(1516日)。仏独伊3カ国首脳がキーウ(キエフ)に入る(16日)。中国3隻目の空母「福建」が進水(17日)、などです。

 WFP(世界食糧計画)は「ウクライナの穀物サイロ(貯蔵庫)が満杯。同時に、世界中で4400万人が餓死に近づいている」との懸念を表明しました。特に輸入小麦の依存度が高いのは中東・アフリカ諸国であり、中東・アフリカ諸国への支援が必要になっています。(産経69日付)

▲広大な小麦畑(イメージ)

 小麦問題の主要な原因がロシアによるウクライナ侵攻です。「特別軍事作戦」が始まってもうすぐ4カ月となります。

 ウクライナの東部で戦闘が激化しており、停戦協議におけるウクライナ側代表団トップであるダビド・アルハミア氏は615日、ウクライナの死傷者数が一日最大1000人に上っており、戦死者は1200500人であることを明らかにしました。

 もちろんロシア側の被害も甚大です。米国制服組トップのミリー統合参謀本部議長は15日、ブリュッセルでの記者会見で、露軍が装甲戦力を最大30%失ったと指摘し、事態は第1次世界大戦のような消耗戦になっていると、述べました。

 ウクライナの穀物輸出が滞っています。理由はロシア海軍による黒海の港湾封鎖です。
 欧州の穀物庫といわれるウクライナの輸出主要ルートは、南部オデッサ港からトルコのボスポラス海峡を通過するものです。

 しかし現状は、ロシア艦船による海上封鎖やオデッサ港に近づくことを阻止するためのウクライナによる機雷敷設の影響で2000万トン以上の穀物が国内に滞留し、世界的な穀物価格の高騰と穀物不足につながっているのです。

 NATO国防相会議が1516日とブリュッセルで開かれ、多くのウクライナ支援の内容が確認されました。
 米国の支援として、東部戦線で使用する155ミリりゅう弾砲18門、砲弾36000発を追加。高機動ロケット砲システム(HIMARS)用の砲弾の他、暗視装置や無線機も盛り込まれました。

 特に注目されるのが、今回初めて供与されることが決まった地上配備型の対艦ミサイルシステム「ハープーン」(射程100㎞超)二基です。
 狙いは、ウクライナ軍が南部オデッサ付近の制海権を確保し、露軍の黒海封鎖で停滞している穀物輸送を再開できるようにするためです。

 防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長はハープーン供与について、「(穀物輸出への)障害が一つ消える」と解説しています。

 これまでは「南部港湾都市オデッサなどへのロシア軍上陸を恐れて黒海の機雷を取り除けなかった」のですが、ハープーン配備によって、ロシア艦船は近づけず、機雷を取り除いて穀物輸送を開始できるようになるというのです。

 また、飛距離がより長い弾道ミサイルでないことから、今回の供与で戦闘が他の地域に拡大することは「考えにくい」とも指摘しています。

 NATOが真に結束すれば「道」は開かれます。プーチン大統領の勝利はあり得ません。