夫婦愛を育む 182
カインの気持ちをくみ取る

ナビゲーター:橘 幸世

 教会にあまり足が向かない青年と喜んで信仰生活をしている青年が話をしました。
 後者は一生懸命自分の体験や恩恵を語りますが、前者にはあまり響かなかったそうです。それを聞いてふと思い出したことがありました。

 1980年代前半、高田馬場にある教会で学生担当をしていた頃、統一原理の講義を一とおり聞いた学生たちを映画館に連れていったものでした。
 お目当てはジェームズ・ディーン主演の『エデンの東』。ノーベル文学賞を受賞したスタインベックの同名の小説が元となっています(1950年代の映画ながらテーマ音楽はいまだにいろいろなところで耳にします)。ビデオが普及する前の時代、皆で映画を見て感想を言い合っていました。

 この小説は聖書のカインとアベルの物語がベースで、弟を殺して故郷を追われたカインに救いはないのかがテーマです。
 初めてこの映画を見た時、どうしてスタインベックは聖書の一節を読んだだけでカインの気持ちがこんなに分かったんだろう、と思ったものでした。
 カインの立場の主人公を演じたジェームズ・ディーンの、求める愛を得られないでいる何とも言えない切ない表情も印象的でした。

 感想をシェアする場では、大体「自分はどちらかというとアベルかな」「自分はカインだった」と育った家庭環境から二つに分かれます。
 アベル・カインそれぞれが取るべきだった態度を講義で聞いていますので、そこを自覚すると各自の課題や方向性が見えてきます。

 予想だにしなかったのが学生部責任者の感想でした。
 「息子の気持ちをくみ取ってやれなかった父親の姿が印象に残った。自分もメンバーの気持ちに気付かないでいたことがあったのではと反省した」
 皆が兄弟に自分を重ねる中、両者に接する父親に重ねたのでした。
 20代前半だった私には全くなかった発想です。やはりリーダーとして皆に責任を持とうとするかたの視点だと、敬服しました。

 映画での父親は、善良で信仰的、彼自身も兄との関係においてアベルの立ち位置にいました。素直に育ったからでしょうか。息子を愛していながらも、カインの立場にいる方の息子の行為とその背後にある気持ちを理解できず、𠮟責(しっせき)します。

 供え物を受け取ってもらえなかったカインに対して、アベルが寄り添うような態度で接していたら、殺されることはなかっただろうといわれています。
 「寄り添う」には相手の気持ちを察しなければなりませんし、相手の置かれている状況を自身で経験したことがなければ、その状況にいる自分を想像してみなければ、理解には至らないでしょう。

 まずはやはり、「じっくり耳を傾ける」「心を開くまで」でしょうか?

 ちなみにこの映画では、ヒロインが聖霊のような役割を果たし、父親と息子を結び直します。

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