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トムヤムクンを召し上がれ
バンコク生活記⑥
タイ人の明るい性格は輪廻転生から!?

 2013年から2014年まで『トゥデイズ・ワールド ジャパン』に掲載された懐かしのエッセー「トムヤムクンを召し上がれ バンコク生活記⑥」の一部を、特別にBlessed Lifeでお届けします!

 筆者のアルンローッゴーソン真理子さんは、6500双のタイ日家庭です。

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 タイ人の約90パーセント以上は、仏教徒といわれています。タイ国憲法では信仰の自由が保障されていますが、事実上の国教は仏教(上座部仏教)です。さらに、暦の祝日というと、仏教と王室に関する内容がほとんどです。

 通りに出れば、すぐに裸足で托鉢をする僧侶に出会うなど、生活の中で仏教色を感じないのは、教会の礼拝に参加している時間くらいではないでしょうか。

▲市場で托鉢をする僧侶。未成年の僧侶をネーン(沙弥〈しゃみ〉)、20歳以上の僧侶をプラ(比丘〈びく〉)と呼ぶ

 タイに来たばかりの頃、道を歩いていたら僧侶の衣と私の手が触れそうになって、一緒にいたタイの姉妹からきつく注意されたことがあります。それもそのはず、女性に接触すれば教えに引っかかるので修行の妨げになるのです。

 タイの男性は、王族をはじめとして、出家をする風習があり、職業を問わず、数週間だけ僧侶となります。

 ちなみに、夫も教会に来る前に出家済みですが、当時19歳だった夫は小僧!? なので、十戒を守ればよかったそうです。成人してから出家すると、227戒を守らなければならず結構大変だとか。でも、その分功徳も多いそうで、成人して結婚する前に出家する人が大多数を占めています。

 初めて、夫の故郷のプーケットに行きお母さんに会ったとき、真っ先に見せてくれたのが、夫が出家したときの儀式の写真でした。お母さんにとって誇り高き息子の姿かもしれませんが、頭髪と眉毛を剃り落とした姿にはビックリしました。写真を見て一番笑っていたのは夫自身ですが……。

 息子が出家すると、息子の袈裟をもって、その功徳で親は天に引き上げられ、地獄に落ちないと言われています。ですから、お母さんはありがたそうに話してくれました。親や先祖が他界した後でも、1週間ほど出家し功徳を積めば、同じ意味合いをもつと言われます。そのため、職場でも有給休暇を利用し、出家する人をたまに見かけます。

 さて、出家の期間が終わり俗世に戻ったら、五戒(殺生をしない、盗まない、不倫をしない、嘘をつかない、酒を飲まない)を守って生きることとなります。しかし、それ以上に大切なのはタンブン(徳積み)をすることで、その目的は「来世の自分のため」です。

 タンブンには動物を助ける、お寺の近くで売っている亀や魚などを買って川に放つこともありますが、一番よくするタンブンがお寺や僧侶への寄進です。職場や子供が通うミッション系の学校でもタンブンがあり、「寄付をいくらしますか?」と通知が来るほどです。

 また学校の行事でお寺に宿泊し、高僧のお説教を聞くこともあります。これだけ国民に仏教の教えが浸透しているのには感心します。

 その全ては、「輪廻転生」を信じているからです。

 ある家で幼い子が亡くなったとき、「(前世の)徳が少なかったね。早く生まれ変わって帰って来てね」と言いながら、家族で一生懸命タンブンをしていました。タンブンをすればするほど、転生時に反映され、幸せになれるということです。

 タイ人の楽観的で、明るい性格はこういう宗教的背景から来るのかなあとも思いました。

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(この記事は、『トゥデイズ・ワールド ジャパン』2013年11月号に掲載されたものです)