世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

尹錫悦氏第20代韓国大統領に
日韓、米韓関係の再生へ

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、37日から13日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 北朝鮮、核実験場で修復の動きか(米NBCテレビ/7日)。習主席、欧米の制裁を再び非難(8日)。第20代韓国大統領選挙の投開票(9日)。感染拡大、中国・長春ロックダウン(11日)。米、ロシアの関税優遇剥奪を表明(11日)。感染拡大、中国・深圳市都市封鎖(14日)、などです。

 39日、韓国大統領選挙投開票が行われました。
 その結果、保守派野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソンニョル)候補が進歩派与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補に0.7ポイント差の僅差で勝ちました。政権交代の実現です。

 新政権の課題は大きく、また、その解決には多くの困難が待ち受けています。
 それを象徴するのが対立構造の顕在化です。僅差での勝利は、政治的分断の証左であり、全羅道が進歩、慶尚道が保守という地域対立の様相が再び浮かび上がってきたのです。

 尹氏勝因の一つといわれているのが、「国民の党」安哲秀(アン・チョルス)氏との候補者の一本化です。しかし期待された若者、女性票は結果として李氏側に流れたとの指摘もあります。

 今後克服すべき課題は、内政としては高騰した不動産価格への対応、高い若者の失業率と格差拡大、少子化対策などがあります。そして尹氏は公約で、脱原発政策の抜本的見直しを訴えています。

 さらに難しいのは外交・安保の課題です。対日関係、対米関係の関係改善と再生に期待が寄せられています。
 尹氏は10日、バイデン米大統領と電話で会談、11日には岸田首相と約15分間、電話会談を行いました。

 岸田首相とは、日韓間の「歴史問題、経済、安保協力を包括的に解決する」努力をすることを確認。また北朝鮮が大陸間弾道弾(ICBM)を含むミサイル発射を繰り返している現状を踏まえ、対応で緊密に連携していくことも確認しました。そして北朝鮮による日本人拉致問題についても協力することで一致しました。

 さらに、10日のバイデン大統領との電話会談後、尹氏は記者団に「北朝鮮の不法で不合理な行動には断固対処する」とし、最初に北朝鮮による軍事的挑発を話題にし、文在寅(ムン・ジェイン)政権で揺らいだ「米韓同盟の再建」を打ち出したと述べています。

 実は、在韓米軍基地への「終末高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備から5年たちますが、異様な状況が続いていたのです。

 運用を担う米軍将兵はコンテナなどで寝起きし、まともな食料が滞ることさえあったといいます。
 資材の搬入を妨害する反対団体を文在寅政権が半ば野放しにしてきたからです。
 昨年訪韓したオースティン米国防長官は「容認できない」と強い不満を示したほどです。

 現在ソウルはミサイルの脅威にさらされています。
 THAADは、配備に反対する中国に配慮して、南東部の星州に配置されたため、人口が密集する北西部の首都圏を防衛できないのです。

 国防省出身の権泰煥(クォン・テファン)韓国国防外交協会長は「北朝鮮のミサイルに対して首都圏は無防備に近い」と警告しています。米国との関係は危機的状況にあったのです。

 尹氏陣営は11日から、新政権発足への準備を本格化しました。
 課題は政権の骨格人事です。首相は内政で大統領を補佐する立場ですが、選挙戦終盤で一本化に応じた中道野党「国民の党」の安哲秀代表を軸に調整を進める予定です。

 しかし、任命には国会の承認が必要となっており、今議会(300議席)の構成は、「共に民主党」が172議席、「国民の力」110議席、「国民の党」は3議席と完全なねじれです。

 韓国大統領は大きな権限を持っていますが、独裁批判を恐れ、議決に反対することはこれまでほとんどありませんでした。

 国会議員選挙は2年後となります。大胆な方向性を明示しながらも慎重な政権運営を進めていくことでしょう。
 いずれにしても期待は膨らみます。