夫婦愛を育む 178
「余裕がなかったんだ」

ナビゲーター:橘 幸世

 今月21日付の読売新聞に別居状態の夫婦を取り上げた欄がありました。

 そこでは6070代の女性たちの声を紹介していて、8年前から完全家庭内別居中で今後もその状態を続けていくという人や、老後を考えてやり直した方がいいのだろうかと迷っている人などの事例がありました。

 印象に残ったのは、夫婦とも教員をしていたというカップルです。

 早苗さん(仮名)は過干渉な義母との関係に苦労しますが、夫は一切関わろうとせず、次第に会話がなくなって家庭内別居状態に。ところが義母が亡くなると、夫は何事もなかったかのように早苗さんと会話するようになりました。

 昨年、夫と二人になった際、早苗さんは「子育ても親戚づきあいも一人でやらなければならず、嫌だった」と胸の内を吐き出しました。すると、夫がぽつりと「余裕がなかったんだ」。
 「この一言で、私の中に刺さっていた棘(とげ)のようなものがスッと取れた気がしました」と彼女は言います。最近、夫は気遣いの言葉を掛けてくれるとのこと。

 「私たちの関係は今後も変わっていくのかもしれません」と、明るい未来を感じさせるコメントで締めくくられていました。

 ちょっとした言い合いでお互い不機嫌になり、半日口を利かないだけでもしんどいのに、8年、10年と会話せずに暮らすのは想像を超えた世界です。

 子供が手を離れ、世間体を気にするような環境ではなくなっても、なお関係を清算しないのは、経済的理由のみならず、配偶者への恨みや未練など、(時には本人も気付いていない)整理されていない情があるからかと思います。
 そこのところをクリアしたら、早苗さんたちのように関係が良い方向に向かうのではないでしょうか。人間、誰でも仲良くやっていきたいのですから。

 早苗さんの夫の「余裕がなかったんだ」という言葉は、男性はなかなか本音が言えない、ましてや悩みや弱音は余程のことがなければ言えない、と講座でお話ししてきた内容につながります。
 妻の苦労を見ながらも、母との間に入ったら自分が陥るだろう状況を想像して、踏み込む余力がないと思ったのかもしれません。仕事に対する男性の責任感、プレッシャーは、女性のそれの比ではないといいますので。

 「いっぱいいっぱいだった」という夫の本音、弱い部分に触れた早苗さんは、通じた喜びを感じたのかもしれません。私も大変だったけど、あなたも大変だったのね、と。

 相手に対して不満があっても、伝えなければ相手は気付かないままのこともあります。
 本音を言うのは時に勇気が要りますが、負の感情を抱え続ければ関係はいずれ限界が来ます。そんな時は、男女の違いをしっかり理解した上で、祈りつつ、上手に伝えられる言葉やタイミングを探しましょう。本音をシェアできてこそ、近しい関係、喜びの関係となるのですから。

 あるいは、何かの拍子に相手の本音がポロっと漏れたら、聞き流さないでしっかり心に留めおき、寄り添うよう努めていきたいものです。

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