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トムヤムクンを召し上がれ
バンコク生活記④
ミスマッチのようで、ベストカップル!?

 2013年から2014年まで『トゥデイズ・ワールド ジャパン』に掲載された懐かしのエッセー「トムヤムクンを召し上がれ バンコク生活記④」の一部を、特別にBlessed Lifeでお届けします!

 筆者のアルンローッゴーソン真理子さんは、6500双のタイ日家庭です。

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 タイで出合った衝撃のスイーツ、その名は「ブアローイ・カイワーン」。直訳すると「ブア=蓮、ローイ=浮かぶ、カイワーン=甘い卵」となります。

 白くて温かいココナッツミルクの中に白、ピンク、緑色などの白玉が浮かんでいて、日本のお汁粉のタイバージョンというところでしょうか。

 しかし、これだけで終わらないのがこのスイーツの特徴。その甘~いココナッツミルクの中に甘い落とし卵(ポーチドエッグ)が潜んでいるという代物です。

▲「ブアローイ・カイワーン」。白っぽく沈んで見えるのがポーチドエッグ

 タイに来たての頃、教会の責任者のタイ日家庭夫妻が、レストランで「トムヤムクン」をごちそうしてくださり、タイに来て良かったな〜と大満足したものです。そして、最後にデザートとして責任者が注文したのが、コレでした。

 情熱的で、すてきな責任者が「ブアローイ・カイワーン」をおいしそうに食べた瞬間、引いてしまった私です。ココナッツミルクとポーチドエッグが口の中で醸し出すハーモニーというものを、私は想像したくなかったのです。

 幸いなことに、ポーチドエッグを入れるかどうかはオプションで、私と夫人はポーチドエッグなしの普通のブアローイを頂きました。その味はお汁粉を思い出させてくれるおいしさです。ただ、ココナッツミルクは脂肪の塊なので、できれば控えたいですが……。

 一方、ポーチドエッグを食べる姿をじっと見ている私たちに、責任者が「胃の中に入れば一緒だよ」と笑顔で言ったのを、かすかに覚えています。

 考えてみれば、確かにお菓子作りで卵は付きもの。ふと「このスイーツを制せずしてタイを制することはできない!?」という思いが頭をよぎってから、はや19年。いまだ普通のブアローイしか愛せない私。実は夫も子供も苦手なのです。

 職場の同僚に言わせると「甘い卵(カイワーン)はやっぱり半熟じゃないとね、完熟はおいしくない」とか。ますます、タイ人との味覚の差を感じました。

 次に、遭遇した衝撃のスイーツは「カオニャオマムアン」。訳は「カオニャオ=もち米、マムアン=マンゴー」で、ココナッツミルクで炊いたもち米の塊の横に甘いマンゴーが寄り添い、ココナッツミルクをかけて「召し上がれ」というものです。

 見た目だけだと、「これはミスマッチでは?」という反応が返ってくるかもしれませんが、意外にマッチしておいしく、タイのスイーツの王道をいっています。

▲「カオニャオマムアン」。白いのはもち米、黄色はマンゴー

 どことなく、私たち夫婦の祝福を思い出させてくれる、このスイーツ。一見、極と極のようでも、互いを知ってなじんでいくうちに、実に良いパートナーと巡り会えたという感じです。(笑い)

 このスイーツの旬は4月頃で、街頭にマンゴーが並ぶと「今年もやって来たな~」とうれしくなります。「カオニャオマムアン」はレストランでも食べられますが、屋台やスーパーでマンゴーを自分が選び、皮をむいてもらって、もち米とココナッツミルクと一緒にテイクアウトが主流です。

 スイーツは、私たちに感動や喜びを与えてくれるものです。タイにはお茶の文化がないのでお茶のお供にというより、辛いタイ料理を食べた後で激甘のスイーツを「召し上がれ」という流れで登場するので納得です。

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(この記事は、『トゥデイズ・ワールド ジャパン』2013年8月号に掲載されたものです)