神様はいつも見ている 10
~小説・K氏の心霊体験記~

徳永 誠

 小説・K氏の心霊体験記「神様はいつも見ている」をお届けします(毎週火曜日22時配信予定)。
 世界平和統一家庭連合の教会員、K氏の心霊体験を小説化したものです。一部事実に基づいていますが、フィクションとしてお楽しみください。同小説は、主人公K氏の一人称で描かれています。

第1部 霊界が見えるまで
10. 保険金で払ってはならんぞ

 父のけがが良くなっていくに従い、わが家は現実的な問題に直面せざるを得なくなった。

 それは治療費や入院費のことだった。当初は支払いのことなど頭になかった。瀕死(ひんし)の状態にあった父は、大部屋ではなく、個室に入らざるを得なかったのだ。

 入院から1カ月ほどたった時だった。病院から費用の精算をしてほしいという連絡が入った。費用は莫大だった。とても払える金額ではなかった。そこで初めて私たちは現実と向き合うことになる。

 支払い能力があれば何の問題もないことだったが、わが家は裕福ではなかった。当時は父も母も30代で、家の事業もまだ軌道に乗っていなかった。

 このことは母の頭を悩ませたが、解決策はあった。

 父の事故はオートバイとダンプカーの衝突事故だったが、運が良いこと(?)に、加害者である相手方が自動車保険に入っていたのだ。

 保険金の申請をすれば治療費や入院費の問題は解決する。
 母も叔父も安心したように、穏やかな雰囲気になった。

 「良かったなあ。保険が下りるで。これで入院費も何とかなるわ」

 「ほんま、運が良かったねえ」

 その時、爆弾が落ちた。
 母に“神様”の霊が降りたのだ。

 「保険金で入院費を払ってはならんぞ。それでは整理ができん」

 最初、私たちは何を言っているのか全く理解できなかった。

 「何、言っとる」

 叔父は驚いていた。

 「それはおかしいで」

 治療費や入院費を払うためにはかなりの金額が必要だが、それが手元にない。しかし保険を利用すれば、そのことは問題なく解決できるのだ。それをなぜ使ってはいけないと言うのか。皆、理解できなかった。

 理由を聞こうとしたが、すでに霊は母から離れていた。

 われに返った母も、「神様、今、何て言うてた?」と家族に聞いてきた。

 母は、神懸かりになっているときは、自分が何をしゃべっているのか分からない。後で周囲の人に聞くしかないのだ。

 このような霊との対話は、世界3大預言者の一人、エドガー・ケイシーの予言方法と似ている。

 ケシーは「リーディング」という方法で予言した。
 眠った状態のケシーに霊が入り、ケシーの口を通して霊はさまざまなことを語った。
 そのため、ケシーは別名「眠れる予言者」とも呼ばれていたのである。

 母はケシーのように眠ることはなかったが、自分が神懸かりになっている時は、ケシーと同じように何を語っているのか分からなかった。

 母は何も分からないので、霊がどう言っていたのか、姉や私などに聞いてくるのだ。

 「神様は、保険金を使ったらあかんて、言うてるで」

 「そんなことを言っていたの?」

 しばらく母はぶつぶつつぶやいていた。

 「そんなこと言うてもなあ~」

 母は失望し、途方に暮れたようだった。霊の言うことを守れば、どこからかお金を集めてこなければならない。しかし保険金があれば、何の問題もなく、今後も父を安心して入院させられる。

 どちらがいいのか…。

 神様を取るか、現実的な対応を取るか。
 どちらを選ぶのか――そのことが後の私たちの運命を決める選択に思えた。

 母は悩んだ末、「保険金を使わない」という結論を出した。世間的に見れば、母の結論はばかげた、非常識な決断にしか見えない。だが母には、半死半生の夫の命が助かったのは神様のおかげだという実感があった。

 その神様の言葉に従わないわけにはいかない。葛藤の果てに、母は神様の言うことを受け入れ、保険金を使わなかった。母はこの時、宗教の道を選んだのだ。

 母の決断は、不自由な父と、育ち盛りの子供3人を抱えて苦労の道を行くことを意味していた。母は親戚を拝み倒して費用をかき集めた。少なからぬ借金も残った。

 母はその時から家業の土木工事の請負業を背負い、決死の覚悟で働きだしたのである。

(続く)

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 次回は、「家を教会にしなさい」をお届けします。