愛の知恵袋 156
大いびきを何とかして!

(APTF『真の家庭』277号[2021年11月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

毎晩の爆音で眠れない妻たち

 あるセミナーの後の懇談会で、“いびき”のことが話題になりました。

 「夫婦は仲良く同じベッドで寝るのが理想…というのはよく分かりましたが、うちの夫とは一緒には寝れないです。いびきがひどいので…」

 「うちもそう。いびきがすごいの。途中で鼻をつまんでやったり、口をふさいでみると、ちょっとは止むんだけど、またすぐに『グオー、ガオー、ヒュー、ゴロゴロ』なの」

 「私もしばらくは我慢しましたよ。布団をかぶって寝たり、耳栓をしたりしましたが、それでも無理。もう、不眠症になりそうなので、別の部屋で寝ているの」

 こうして、妻たちの“いびき談義”はしばらく治まることはありませんでした。

「いびき」とは何なのか

 日本薬科大学教授の姫野友美博士によれば、日本人のいびき人口は約2000万人。内訳は男性が8割、女性が2割で、男性のほうが圧倒的に多いようです。

 女性が少ないのは、女性ホルモンの一つである黄体ホルモンが上気道の筋肉や横隔膜、肋間筋などの呼吸筋活動を促進するからです。男性にはこのホルモンがほとんどありません。また、女性は閉経以降に黄体ホルモンが無くなり、いびきをかく人が増えます。

 他にも、肥満、飲酒、疲労、口呼吸などがいびきの原因になると言われています。

 「いびき」というのは、上気道というのどの一部が狭くなり、呼吸した空気が通りにくくなることで起きる現象です。眠ると上気道の筋肉が緩んで喉の奥が狭くなり、通る空気の抵抗が大きくなって、粘膜との摩擦音や振動音が発生するわけです。

 肥満になって二重あごになると、空気の通り道が狭くなっていびきが大きくなります。また、飲酒するとのどの筋肉が緩んでたるみ、上気道が狭くなり大いびきになります。

恐ろしい無呼吸症候群

 問題は、いびき人口の約10%、200万人が「睡眠時無呼吸症候群」にかかっていることです。睡眠中に気道がふさがって呼吸が止まってしまう病気です。

 大いびきで寝ている人が突然ピタッといびきが止まり、しばらくすると爆裂音と共に再びいびきと呼吸が戻るという症状です。重症になると一晩に500回も呼吸停止を起こし、また、一度の停止時間が3分間を超える場合もあるそうです。

 この無呼吸症候群になると、脳や体全体が酸素不足に陥り、朝起きても熟睡感がなく、昼間に強烈な眠気が襲ってくることになります。会議中に居眠りをしたり、読経中のお坊さんが眠ったりというのは序の口で、車の運転中や仕事中にも睡魔が襲います。

 私の知人男性は車の運転中に橋の上で意識が無くなり、歩道にドーンと乗り上げて横転事故を起こしました。幸い軽いケガだけで済みましたが、一歩間違えば大惨事でした。

 結局、睡眠時無呼吸症候群であったことが分かり、治療を受けて、夜はCPAP(シーパップ)を装着して寝ていますが、医師の忠告もあり、今は車の運転をやめています。CPAP療法は睡眠時に鼻マスク状の器具を装着するもので、いびきや無呼吸などの症状が劇的に解消されることが多いそうです。

 1993年のアメリカ睡眠障害調査研究会の報告によると、担当者らの睡眠障害が直接・間接の原因となって起きた重大事故には、スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故、スペースシャトル・チャレンジャー爆発事故、アラスカ沖原油流出事故、オレゴン列車衝突事故などがあります。

 日本でも近年、睡眠時無呼吸症候群による居眠りで、様々な事故が起きています。

 「たかがいびきくらい…」などと思っていたら、大変なことになるようです。

治療すれば、ほとんどが解消する

 姫野先生は、「夫が大きないびきをかくようなら、逃げ回る前に、睡眠中に呼吸停止があるかどうかを確認してほしい」と言っておられます。

 そして、もしその兆候があるなら、無呼吸症候群を扱う医療機関で受診しましょう。

 最近は簡単な機械で自宅で検査ができ、精密検査が必要な場合は入院して検査します。治療法は軽症ならマウスピース療法、中程度以上ならCPAP療法、その他、手術療法、薬物療法などもあります。自分でもできるいびき改善法としては、あおむけでなく横向きに寝ること。また、就寝時に鼻に鼻腔拡張テープを貼るのも良いそうです。自分のためにも、家族のためにも、いびきや無呼吸症候群に関心をもち、しかるべき対処をして、安心してぐっすりと眠りましょう。

参考文献:姫野友美著『なぜ男と女は4年で嫌になるのか』幻冬舎

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 次回の配信は12月10日(予定)です。