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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

タリバンが暫定政権樹立を宣言

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、9月6日から12日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米2長官、カタール訪問~アフガン情勢で連携(6日)。タリバンが暫定政権樹立を宣言(7日)。北朝鮮軍序列トップが交代、朴正天氏が党中枢入り明らかに(7日)。平壌で軍事パレード、金正恩氏出席(9日)。米中首脳が電話会談、2月以来(9日)。北朝鮮、長距離巡航ミサイル実験成功(11、12日)、などです。

 アフガニスタンのタリバンは7日、暫定政権の樹立を宣言しました。
 最高指導者アクンザダ師を筆頭に閣僚33人は全てタリバンのメンバーでした。派閥間の調整が難航し明らかにされたのは首相代行など主要閣僚の一部にとどまっています。
 8月15日にアフガンを制圧し、それから約3週間過ぎてからの発表でした。

 タリバン内部では当初、穏健派とされる政治部門トップのバラダル師が首相に就任する計画が浮上していましたが、国際社会との対話に重きを置くバラダル師に対して一部強硬派が反発し、副首相に収まりました。

 大きな懸念が広がっています。閣僚に女性は入らず、内相代行として米国が国際テロリストと指定した人物の存在が就いたからです。
 タリバンは当初、国内の融和をアピールするため、「包括的な政権」を目指すと強調し、女性や旧政府高官の起用を示唆していましたが強硬派の反発で実現しなかったのでしょう。
 米国務省の報道担当者は声明で、暫定政権について「排他的に構成されている」との見解を示しました。

 最高指導者アクンザダ師は声明で、「シャリア(イスラム法)を守るため全力を尽くす」と強調していますが、旧政権時代(1996~2001年)は極端なイスラム法解釈で女性の権利などを極端に制限してきた経緯があります。

 さらに、かつて強権統治を主導した「勧善懲悪省」を復活させました。国民を恐怖で震え上がらせた集団の体質は変わっていないと見なければなりません。政権を握っていた5年間、音楽や映画などの娯楽も禁じ、中部バーミヤン渓谷の仏教遺跡も破壊しています。

 内相代行に就いたのは、ハッカニです。タリバン副指導者であり、米国が国際テロ組織に指定する「ハッカニ・ネットワーク」を率いる人物です。「9.11」を引き起こしたアル・カーイダとの関連が深いとされています。

 タリバンは暫定政権の政策を巡り欧米が態度を硬化させても、中国などの支援で乗り切る構えです。報道官は6日の記者会見で、「中国の協力は非常に重要だ」と名指しで称賛しています。
 「9.11」の翌年、2002年に江沢民国家主席(当時)は共産党大会で、21世紀初めの20年間を「戦略的好機」と位置付ける発言をしました。米国主導のテロとの戦いが長期に及ぶとの見通しの下、覇権追求にまい進したのです。

 「米軍の敗走」は、各地に拡散した過激思想を勢いづかせる可能性もあります。
 アフガンは今後、テロリストにとっての「安全地帯」となってしまうかもしれません。欧米の治安機関の監視対象となっている過激派戦闘員が、安全な避難先としてアフガンに集まる可能性が出てきているのです。