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カインとアベル

(光言社『FAXニュース』通巻587号[20001025日号]「シリーズ旧約聖書人物伝」より)

岡野 献一

 『FAXニュース』で連載した「旧約聖書人物伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。

 人間始祖アダムとエバには2人の男の子が生まれました。兄の名はカイン、弟の名はアベルといいます。カインは農夫となり、アベルは羊飼いになりました。

カイン、憎み深まり野原でアベルを殺害

 ある日のこと、ふたりは神様にそれぞれ供え物をしました。カインは畑で取れた作物をささげ、弟のアベルは飼っている羊の群れから、最初に生まれた肥えた小羊を選んでささげました。神様はアベルとその供え物には目をとめられましたが、カインとその供え物には目をとめられませんでした。そのことで「カインは大いに憤(いきどお)って、顔を伏せた」と、聖書は記しています。

 では、どうして神様は兄カインよりも弟アベルを愛されたのでしょうか。聖書によれば、アベルは義人(マタイによる福音書23章35節)かつ信仰ある人物であり(ヘブル人への手紙11章4節)、カインは悪しき者で、そのわざが悪かった(ヨハネの第一の手紙3章12節)と述べています。けれども、この兄よりも弟が恵みを受けるというパターンは創世記に繰り返し出てくる話です。ヤコブとエサウ、ペレヅとゼラ、エフライムとマナセなどが典型的な例です。えこひいきではないか?と疑いたくなりますが、しかしそこには深い訳があったのです。いずれにせよ、神様に顧みられなかったことでカインはアベルを大いに憎み、野原で殺害してしまったのでした。人類最初の殺人事件です。

 文鮮明先生はカインとアベルについて次のように語っておられます。

 「アベルが、カイン…とともに供え物をささげたとき、神様が自分の供え物だけ受けて兄の供え物を受けなかったとしても、兄に純粋に対さなければなりませんでした。兄のことを考えなければなりませんでした。そして『ああ、お父さん、なぜ私の供え物だけ受けたのですか?』と言って泣きわめいて、兄のところへ行って『私の供え物だけ受けた神様は嫌いです』と言ったなら、神様はどうされたでしょうか? 間違いなくカインを愛さずにはいられなかったでしょう。

 カインとアベルは供え物を同じように準備して神様にささげたことでしょう。カインは穀物を、アベルは羊を精誠を尽くしてささげたのです。精誠を尽くすことはいいというのです。ところでだれが精誠をより尽したかという問題を離れて、供え物を受ける受けないという問題を見るとき、神様はアベルの供え物を受けざるを得ない立場であるから受けたのです。…アベルは自分の供え物だけを受けられたので、自分ができが良くて、神様は自分だけが好きなので受けたのだと思って…自慢したのです。…じっとしているカインの顔がなぜ赤大根のように真っ赤になりますか? …アベルは驕慢(きょうまん)では駄目だということです。謙遜でなければなりません」

▲アベルを殺すカイン(ギュスターヴ・ドレ画)

心情のすれ違いが不幸な結末招く

 先に生まれた兄カインにとってみれば、年下の弟アベルが自分より恵みを受けたという事実は承服し難いことだったのでしょう。カインの言い分からすれば、「自分は畑の作物を得るために精誠を尽くしたんだ。額に汗して土を耕し、種をまき、雑草を抜き、日照りの続く夏には水をくんできてはまき、本当に苦労した。それに比べてアベルは角笛を吹き、歌を口ずさみ、羊をのんびりと眺めながら、ときおり木陰で休んでいる。なんだアベルのやつ、楽しやがって。俺はこんなに重い思いをして水をくんできているんだぞ。しかも、おまえの羊はこの前、俺の畑を荒らした。そんなアベルが評価されるなんて…」と、そんなふうに思っていたのかもしれません。

 しかし本当は、アベルはカインの見ていない真夜中に、羊を狼から守るため寝ずの番をしていたのかもしれません。夜空の星を眺めつつ神様に祈りをささげていたことでしょう。アベルは祈りの中で、人は自分の力で生きているつもりでいるけれど、本当は神様によって生かされていることを実感していたかもしれません。そして苦労しているカインのために作物が豊かに実るように祈っていたかもしれません。また畑を荒らしに来たタヌキやイノシシなどを追い払ってくれたことでしょう。しかし人間は得てして自分の見ている範囲でその人を裁いたり、不平を言ったりするものです。残念ながらカインとアベルの心情のすれ違いは、不幸な結末を招きました。

 神様は、すでにカインとアベルのときに救いの摂理を始めておられたのです。イエス様が「私は罪人を招くために来た」「百匹の羊のうち、迷い出た羊一匹を見いだせばそのために喜ぶ」と言われたように、神様の願いはアベルを通してカインを救いたいということでした。

 実は、カインとアベルは、先に創造された天使長と後に生まれたアダムの立場を再現したものでした。カインとアベルが愛し合うことができたなら、そのときに救いの摂理は成就されていたのです。

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 次回は、「ノアと方舟」をお届けします。

画像素材:PIXTA