世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

隠しきれない北朝鮮の窮状

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、7月5日から11日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 中国、独仏首脳とオンライン会談(5日)。台湾巡る麻生氏の「存立危機事態」発言に中国が反発(6日)。韓国・国家情報院が国会に北の最高幹部が解任されたことを報告(8日)。日本共産党「日米安保廃棄」政権公約から除外へ(9日)。中朝が援助条約60年、祝電を交換(10日)、などです。

 韓国・国家情報院が8日、国会に北朝鮮の最高幹部政治局常務委員(5人)の一人、李炳哲(リ・ビョンチョル)党書記が解任され、軍需工業部長に降格されていたことが判明したと報告しました。李氏は北朝鮮の核・ミサイル開発を主導してきた人物であり軍序列1位でした。軍序列2位の朴正天(パク・ジョンチョン)総参謀長も元帥から次帥に格下げになりました。

 解任の理由は、新型コロナウイルスの防疫を巡ってのことといわれています。
 金正恩総書記は6月29日の党中央委員会政治局拡大会議で、「国家と人民の安全に危機をもたらす重大事件」が起きたと叱責し、「幹部の無責任と無能」を批判していたのです。そこで大規模な更迭人事が決定されたのですが、その対象者は明らかにされていませんでした。

 ところが、7月8日の金日成主席の命日に、遺体が安置された錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を正恩氏らが参拝した際、政治局常務委員4人が並ぶ最前列に李氏の姿はなく、3列目に並んでいたことが配信された写真で確認できたのです。

 「重大事件」とは、韓国国家情報院の報告によれば、中朝国境の平安北道義州郡にある軍の飛行場を中国との貨物輸送拠点に転用しようとしたところ、消毒施設が不十分だったこと、さらに軍の戦時備蓄食料を住民に放出しようとした際、管理がずさんだったため、供給が遅れたことであると見られています。
 軍が備蓄データを虚偽報告していたことから、備蓄放出時に実際の量との食い違いが発覚したらしいのです。

 背景には北朝鮮の経済的「三重苦」があります。
 国連経済制裁、コロナ対策としての中朝国境封鎖、自然災害がそれです。
 国家情報院はまた、北朝鮮国内のひっ迫した経済状況を継続して報告しています。
 報告によれば、今年1月に1キロ当たり3000ウォン台後半だったコメが、6月には一時7000ウォン台まで高騰、現在は価格統制によって4000ウォン台後半まで下がったとのこと。しかし住民の不満が噴出し、価格取締員を暴行する事件も起きているというのです。

 ある中朝貿易関係者は、「平壌でも1日1食しか食べられない人がいる。餓死者も出ているようだ」と語っています(「読売」7月9日付)。
 コロナ禍は、世界のどこよりも北朝鮮を経済的に追い込み、当局はその窮状を隠しきれなくなっています。日米韓が結束して南北統一に向かう新たな道を北朝鮮と共有するチャンスであると見るべきでしょう。