世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米露首脳会談~「入念準備」という「弱腰」

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、6月14日から20日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。 
 NATO(北大西洋条約機構)首脳会議「中国は体制上の挑戦」と非難(14日)。党中央委総会が開幕、金正恩氏「食料状況が緊張」(15日)。新政権のイスラエル、ガザを空爆~ハマスの発火付き風船飛来への報復(16日)。米露首脳会談(16日)。第204通常国会閉会(16日)。イラン大統領に反米・保守のライシ師(19日)、などです。

 米露首脳会談が16日、スイス・ジュネーブで開催されました。約3時間半に及んだ会談となりましたが、珍しくプーチン大統領はほぼ予定どおり会談場に姿を見せました。

 今回の会談は、米国側が提案したものです。
 バイデン大統領の狙いは、双方の大使帰国という事態にまで悪化した対立に歯止めを掛け、中国との対立が激化していく中で二正面の争いを回避することにありました。

 一方、プーチン氏の狙いは、国際社会におけるロシアの影響力拡大に米中対立を最大限利用する構えでした。十分その成果を上げることができたと言えるでしょう。

 以下、会談内容のポイントを記します。

◇軍備管理などを協議する「戦略的安定対話」開始で合意(新START=新戦略兵器削減条約が2026年に期限切れに)
◇双方の大使復帰で一致
◇サイバー安全保障巡る協議開始で合意
◇ロシアの人権問題、ウクライナ情勢巡る溝は埋まらず

 などです。

 両国関係が今年に入って一気に冷え込んだのは、米国側に多くの要因があります。
 3月、バイデン氏はロシアの反体制派弾圧などの人権状況を批判して、プーチン氏は「人殺し」だという認識を示しました。
 さらに翌4月、ロシアによる昨年の米大統領選介入やサイバー攻撃への報復として、外交官追放など幅広い制裁を発動したのです。

 米国側は今回、交渉主導のために入念な準備をしました。
 老練なプーチン氏の術中にはまり、交渉の主導権を奪われることを懸念したのです。そのため、見解がぶつかり毅然(きぜん)とした態度を示すべきところでは、プーチン氏と一対一になることを避け、ブリンケン国務長官、サリバン大統領補佐官を同席させました。

 さらに、プーチン氏との共同記者会見を行わないようにしました。
 プーチン氏が衆人環視(しゅうじんかんし/大勢の人々が周囲をとりかこむようにして見ていること)の場で米国に不利となるような提案を持ち出すなどの「変化球」を繰り出す可能性や、バイデン氏が失言で「自爆」するのを封じるためでした。

 繰り返しになりますが、プーチン氏が首脳会談をロシアの存在感を誇示する場としようとするのは火を見るよりも明らかでした。
 米中心の「一極」や米中両国の「二極」ではない「多極世界」の構築を同氏は提唱しています。多極世界の一角の雄として立つ戦略を持っているのです。

 会談を終え、結果として「中露の引き離し」は難しいということ、かえってロシアに自信を持たせてしまったのではないか、という懸念を抱かせるものとなったと言わねばなりません。米国の「入念な準備」が「弱腰」と映ったのではないかと思うのです。

 民主主義の日米欧と、強権の中露という対立構図は今後、さらに強まる可能性が高いと見ておく必要があります。