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【テキスト版】
ほぼ5分でわかる介護・福祉QA

第10回 高齢者福祉編⑨
70歳の母親が認知症と診断されました

ナビゲーター:宮本 知洋(家庭連合福祉部長)

(動画版『ほぼ5分でわかる介護・福祉Q&A』より)

 今回は、「70歳の母親が認知症と診断されました。これからどのようにしたらよいのでしょうか?」という質問です。

 現在、日本には約600万人の認知症を抱えた高齢者のかたがいらっしゃいます。

 この講座をご覧になっているかたの中にも、ご家族が認知症と診断されたというかたがいらっしゃると思います。
 2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になるだろうと推計されていますので、誰にとっても決して他人事ではない、身近な課題であると言えます。

 では、ご家族が認知症と診断された場合、どうすればよいのでしょうか。
 まずは、認知症にはどのような症状があり、どのように対応すればいいのか、正しい知識を持って受け入れることが重要だと思います。

 認知症というのは、何らかの原因によって脳が病的に変化し、記憶などの知的な働き、すなわち認知機能が徐々に低下していく病気です。

 認知機能が低下すると、それに伴ってさまざまな症状が現れてきます。

 その症状には、物事を覚えられなくなったり思い出せなくなったりする、時間や場所が分からなくなる、判断や理解ができないなどの「中核症状」と、認知症が進むにつれて現れてくる「周辺症状」があります。

 周辺症状は、人によって現れ方は違いますが、これが介護者の精神的負担を増やし、ストレスの原因になるケースが多いようです。

 周辺症状が具体的にどのように現れるかというと、まず、自分でできていたことができなくなり、「生きていても仕方がない」という思いになって抑うつ状態になります。

 そこから、さらに被害妄想、幻視幻聴、徘徊、昼夜逆転、暴言暴力、不潔行為など、さまざまな症状が現れてきます。

 これらの症状は薬の服用や介護の仕方を工夫することで軽減することはできますが、誰にでも有効な対応法はなかなかありません。

 さて、認知症の人は自分の状況をどのように感じているのでしょうか。

 当事者の体験談によると、記憶や判断力、自分が置かれている状況を認識する見当識の力が薄れていき(時・場所・人を間違う)、現実世界を適切に把握できず、見知らぬ世界に迷い込んだようで、不安と緊張の中にいるそうです。

 そして、現実世界のスピードに付いていけず、焦りや孤独を体験します。
 周囲の声や雑音、日常の刺激が自分に降り注ぐ矢のように感じられ、その結果、引きこもってしまうこともあります。

 痛みや空腹などの不快な状態に対処できず、混乱し、怒りさえ覚えます。
 それらが積み重なって自分自身が壊れていくような体験をしているそうです。

 新しいことは記憶になく、過去の大切な出来事や人との記憶をつなぎ合わせ、自分の世界を保とうとしているのです。

 介護者のかたはこのような認知症のかたの状況を理解した上で接すると良いでしょう。

 では、認知症の人を介護する際に大切な事は何でしょうか。
 まず、認知症を抱えた、その人のことをよく知り、その人に合った接し方を見つけることです。

 認知症の人は何もかもできなくなるのではなく、できることもたくさんあります。

 できることに対応し、できないことは聞き流す。訂正したり、ましてや責めたりしないことが重要です。

 「昔はできたのに、どうして今はできないの?」などとは決して言わないようにしましょう。
 ご本人が一番がっかりし、自信を失うだけです。

 一人一人生きてきた歴史が違い、おのおのの生活習慣や価値観があるので、それを理解することも重要です。
 また、常識を押し付けたり、怒ったりしないことも重要です。

 出来事は忘れても、怒られたという感情だけが残ってしまいます。

 それから、安全な生活環境を整えることにも気を配りましょう。

 そして何より、介護する人が一人で負担を抱え込まないことが大切です。

 認知症のかたからはむき出しの感情をぶつけられることがあり、精神的に傷ついて疲弊することもあります。
 誰でも限界はありますので、周囲に相談できる人を見つけましょう。

 介護者は決して一人ではないということを忘れないでください。

 必要に応じて介護者はレスパイト(小休止)を取るためのショートステイ(施設への短期入所)を検討することも必要です。