夫婦愛を育む 162
心に届く言葉掛け

ナビゲーター:橘 幸世

 先日ある人の体験談を聞いて、数年前の自分を振り返り、努力の不足さを悔いる思いに襲われました。「もっと~していたら…」と。

 信仰の先輩に相談すると、「そういうふうには考えなくていいの。~していて良い結果になるとは限らないんだから」とサラッと言われました。気持ちが少し楽になったのは言うまでもありません。

 そういえば私自身、過去の至らなかった自分を責めている人に対して、「誰のせいでもありませんよ。その時その時それぞれが皆一生懸命やっていたのですから」なんて電話で言っていました。
 「そうですか」とだけ言った彼の声は、心なしか安堵感が混ざっているように感じました。

 立場が変われば言えることも、ただ中にいる時は感情が先走ってなかなか難しいですね。人に言ってもらうことはやはり大きいかと思います。

 なるほどと思わされる言葉掛けに、あるドラマで出合いました。

 出演している俳優さんが好きで録画しておいた日本テレビ系ドラマ『コントが始まる』。売れないお笑い芸人の話というのであまり食指が動かず、録画がたまるばかりでしたが、消去する前に念のため初回だけ、と見てみると、良い意味で予想を裏切ってくれました。
 それぞれの事情を抱え苦労しながらも、一生懸命生きている若者たちの背景や心理が丁寧に描かれていて、愛(いと)しさすら覚えました。

 芸人の一人が葛藤の真っただ中にあってヒロインの妹に助けを求めます。
 彼は幼くして父親を亡くし、母親には反発して高校卒業と同時に家を出、8年連絡を取っていません。

 その母親が危篤という知らせが突然病院から入ります。芸人仲間は「行け!」と説得を試みます。「後悔するぞ」と(普通誰でもそう言いますよね)。けれど当人は積年の恨みがあって、すぐには動けません。

 相談を受けたヒロインの妹は、二つの思いで揺れる彼にこんなふうに言います。
 「お母さんに長年の恨みつらみをぶつける最後のチャンスじゃない。私だったら逃さないけどな。思いっきり言ってやるわ」

 彼は母親の死に目に間に合ったのでした。

 「恨みをいったん置いて、越えて行け」ではなく、恨みを肯定して「そのままで行け」と背中を押した彼女。見事です。

 「相手の気持ちに寄り添う」とよくいわれますが、実際気持ちを理解し、受け止めて、相手が楽になる言葉を掛けることは決して容易ではありません。私も人の話を聞きながら、返す言葉が見つからないことはままあります。

 それでも、心に届く言葉が掛けられるよう(言葉が見つからない時はただ一緒にいて)、祈りつつ、幼いなりに、不器用なりに、支え合っていこうとする姿を見れば、神様も愛おしく思われて手を伸べたくなられるのかもしれません。


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