コラム・週刊Blessed Life 169
米国経済を支える理論と実践

新海 一朗(コラムニスト)

 個々の人間と国家が行う経済活動は、需要と供給の関係を基本としながらも、そこには民間の側の論理があり、国家(政府と官僚組織)の側の論理があって、いわゆる「官の論理」と「民の論理」の擦り合わせによって成立しているのが実情です。

 世界経済を牽引(けんいん)してきた米国経済が行き詰まり、米国に取って代わる勢いで驚異的な伸長を果たした中国経済も雲行きが怪しくなり始めている昨今、今一度、米国経済の理論と実践がどういうものであったかを振り返る意義は小さくないと思います。

 経済の理論家として、レーガン政権を支えたミルトン・フリードマンや、1990年から2010年までの20年間、混乱する米国の政治と経済に物申し、助言と忠告を与えたジョセフ・スティグリッツとポール・クルーグマンなどがいますが、現在、妥当なところに経済理論を落ち着かせているグレゴリー・マンキューの経済学が、アメリカだけでなく、世界標準の経済学理論になっているようです。マンキューの教科書は世界中の大学で学習されています。

 マンキューの「経済学の10大原理」は、ミクロ経済、マクロ経済のエキスを彼なりにまとめ上げたもので、非常に有名になりました。
 詳細な説明はしませんが、ただ、彼が率直に語っていることは、国家全体において経済がどのように動いているかを明確に語ることが最も難しいと言っていることです。

 その理由として、①金融機関の役割 ②レバレッジの問題 ③金融政策の限界 ④予測の難しさを挙げ、理論だけでは片付けられない「闇領域」のようなものが、どの国家にもあることをうかがわせます。
 ニューケインジアンといわれる彼は、政治的には共和党寄りで、健全な自由主義と保守主義を目指しています。

 経済の実践家として、世界に名をはせたGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)のCEOたちは収益至上主義で、儲かるためなら中国であれ何であれ構わない、という姿勢で走っている民主党絶対支持のシリコンバレー貴族です。

 中国に技術を売り渡し、最後には米国自身の首を絞める結果になってもそれでも構わないという精神は、米国から見れば、売国奴に等しいビッグテックであると言わなければなりません。

 シリコンバレーのドンといわれた人物が、ピーター・ティールであり、彼は天才的な革命児と言ってよいほどの人物です。彼が1998年に立ち上げた「ペイパル」に集まった人材は現在、イーロン・マスクらによってさまざまな企業を起こし、アメリカの新しい未来像を宇宙産業に向けたスケールで描くグループになっています。

 概してこのグループのメンバーの政治的なスタンスは、シリコンバレーの常識を打ち破って、共和党支持、反共主義者がほとんどです。ITの上にあぐらをかいて自ら「神の座」に座っていると錯覚し、傲慢(ごうまん)な思いで世界を睥睨(へいげい/にらみを利かせること)するGAFAへの痛烈な批判を行っているのが、ピーター・ティールなのです。

 彼自身、「パランティア」という企業価値200億ドル(2兆円)のデータ分析企業を持っており、その顧客は、米軍、国防総省、FBI(連邦捜査局)、CIA(中央情報局)といった国家の主要機関ですから、多くの機密案件を扱っているため、公開される情報はほとんどありません。
 GAFAは国家の法や権威にも逆らう傲慢性を見せますが、ティールの見方は、経済活動は国家の法と秩序に従うべきであるとします。
 国家を滅ぼすわけにはいかないとティールは考えているのです。