世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

EU、中国との投資協定を凍結

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、4月26日から5月9日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米政権、対北朝鮮政策見直し完了(4月30日)。G7外相会議開幕(3日)。EU(欧州連合)、中国との投資協定を凍結(4日)。習主席、「東京五輪の開催支持」表明(7日)。独立派2党で過半数~英スコットランド議会選(8日)、などです。

 今回は、EU・中国の投資協定問題です。
 EUのドムブロフスキス欧州委員は5月4日、EUと中国が昨年末(12月30日)に合意した投資協定について、関係悪化により批准への「政治手続き」を停止したと明らかにしました。

 昨年末合意した投資協定は、EUと中国がオンライン形式の首脳会談を開催して大枠合意に至ったものです。その内容は、双方の企業が互いに進出する際のルールを定める協定でした。特に中国が強い意志を示して実現しました。

 ポイントは、
◇中国の電気自動車、通信機器などの各分野でEU企業の参入拡大を認める
◇技術の強制移転を禁止
◇中国の国有企業への補助金の透明性向上を図る
◇中国は、国際労働機関(ILO)基本条約の批准に取り組む
 などとなっています。

 中国側は新型コロナウイルス感染拡大による孤立状況を打開しようと、バイデン政権発足を前にEUを取り込もうとしたのです。

 しかし当時から、中国の人権問題を理由とする内外からの批判がありました。
 仏・ルモンド紙は昨年12月30日、「強制労働問題への取り組みが限られているのに、EUは協定を受け入れた」とし、米・ニューヨークタイムズも同日、「人権や新型コロナ対応への批判で孤立する中国にとって、地政学的な勝利だ」と評していたのです。

 協定はもともと来年前半の批准を目指していました。しかし今年3月に入り、EUがウイグル族に対する人権侵害で中国に制裁を発動しました。それに対して中国がEUに報復制裁を科しました。それは欧州議員を標的にしたものであり、その結果議会で反発が広がったのです。

 ドムブロフスキス氏は、「投資協定の合意批准に適した環境ではない」と語りました。しかしその上で、協定はEU、中国の市場開放の「不均衡是正に役立つ」とし、締結を目指す姿勢に変わりはないと強調しています。
 ドイツのメルケル首相も5日の演説で、「投資協定は非常に重要だ」と述べ、批准の必要性を主張しました。

 中国の対応も抑制的です。中国外務省の汪文斌報道官は5月6日の記者会見で、協定について「双方の利益に合致し、世界にとっても有益だ」として早期発効を目指す考えを改めて述べるにとどめています。

 総合的な対中政策において欧州の役割は大きくなってきているのです。