世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

日米首脳会談が「発信」したこと

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は4月12日から18日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 中国軍機25機、台湾の防空圏侵入(12日)。政府、原発処理水の海洋放出決定(13日)。米大統領、アフガン撤収正式表明(14日)。米の非公式訪問団、台湾の蔡総統と会談(15日)。日米首脳会談、共同声明発表(16日)、などです。

 日米首脳会談について説明します。
 菅義偉首相は4月15日午後8時5分(現地時間)、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着しました。日の丸と星条旗をあしらったマスクを着けてタラップを降りたのです。

 翌日(16日)午後、ホワイトハウスで約1時間半の首脳会談が行われ、その後「共同声明」が発表されたのです。
 名称は「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」。中国に共同して対抗する姿勢を強く打ち出したものでした。

 共同声明では中国を名指しで批判し、「経済的および他の方法による威圧の行使を含む、国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した」とけん制しました。

 ポイントは以下のとおりです。
◆台湾海峡の平和と安全の重要性を強調
◆日米安保条約5条の尖閣諸島適用を再確認
◆半導体などのサプライチェーン(供給網)で連携
◆香港や新疆(シンチャン)ウイグル自治区の人権状況へ深刻な懸念共有
◆脱炭素へ30年までに確固たる行動を取る
◆日本の今夏の五輪開催への努力を支持

 会談前から注目されたのは「台湾」に言及するか否か、するとしたらどのような内容になるのかでした。
 結果として「台湾海峡の平和と安全の重要性」という抑制的なものになりましたが、それ以上に言及されたこと自体が異例のことだったのです。

 日米首脳の共同声明が台湾に言及したのは1969年以来となります。この時の声明は冷戦下でソ連の影響が朝鮮半島や台湾に及ぶ懸念に共同対処する目的があったためでした。日米が中国と国交正常化した後は、日米首脳の共同声明は台湾に触れなくなりました。

 今回の会談の意義は、米国の中国に対抗する決意と覚悟が示され、日本がそれを積極的に受け止めたことです。
 「ポストコロナ」の世界のキーワードは、米中「新冷戦」です。そしてその最前線は日本なのです。よって日米同盟は両国にとって何よりも重要な同盟となったのです。

 日米首脳会談に合わせる形でバイデン政権が同時に展開した重要な外交があります。
 4月13日、アフガニスタンからの米軍完全撤退(9月までに)を発表しました。それも「無条件に」です。テロ・治安の悪化があってもとの覚悟です。
 何のためでしょうか。中国への対抗に力を注ぐためなのです。

 さらに同日、台湾にアーミテージ元米国務副長官ら米要人3人を非公式代表団として派遣しました。
 米国による台湾支援を定めた台湾関係法の制定から42周年に合わせたものですが、日米首脳会談に合わせて一定の効果を狙ったものと見ることができます。

 アーミテージ氏は15日、台北の総統府で蔡英文総統と面談し、「台湾を支えることを保証する」と強調したのです。さらにジョン・ケリー米大統領特使の訪中を同時進行させたのは、気候変動問題での協力と、台湾、ウイグル問題は別物との印象を与えるためだったのでしょう。

 中国の反応は当然、かつてない厳しさです。在日本中国大使館報道官は17日、台湾問題を明記した共同声明について「強烈な不満と断固たる反対」を表明する談話を発表しました。そして日本に対して、「大国間の対立に巻き込まれないよう忠告する」と警告したのです。

 これからの日本の覚悟とは何でしょうか。
 一言です。有事に備えること、これ以外にありません。