夫婦愛を育む 153
自分を愛することは、家族を愛すること

ナビゲーター:橘 幸世

 日本語検定委員会の「日本語大賞」入選作の発表がありました。
 存在すら知らなかった私ですが、小学生の部入選作を新聞で読み、目頭が熱くなりました。

 つられるように他の部の入選作の概要に目を通すと、一つの言葉が私の興味を引き、ネットで全文を読みました。

 一般の部で入選した、10年間心身の病と闘う30代男性の作品です。
 テーマは「私を動かした言葉」。抜粋してまとめたものを紹介します。

 原因不明の体調不良が続き、やがて心が折れた。長引く中で、心の病の方が酷くなった。頑張っている、よそのお父さんたちの話を聞くと、自分と比較して落ち込んでしまう。「自分なんていない方がましだ」「もう無理だ。消えたい」と口走ったりしてしまう。そんな自分を一生懸命励まし支えてくれたのが、妻や子供たちだった。

 ある日、私が「自分なんて要らない。終わりだ」と口走った。すると、いつもは黙っている妻が私に向かって静かに言った。「もう聞きたくない」
 常に私を受け入れてきた妻が、初めて否定の言葉を口にした。そして意を決したように話し出した。

 「私はあなたが病気になってずっとそばにいるから、あなたが頑張っていることも、それでも報われずに辛いこともよくわかる。でも、あなたが自分を蔑む言葉を発し続けることで、支えている私や子どもたちまで価値を下げられているように感じてしまうの。もしも、本当にそんなに価値のないあなただったら、それを必死で看護している私や子どもたちは一体何なの? 私たちまで辛くなる......

 自分で消化できずについ口走る衝動で、妻子までも傷つけていることが全くわからなかった。家族は運命共同体、互いの自尊心や自己価値を共有していて、自分の価値を下げることは、相手の価値までも下げているということに初めて気づかされた。

 病気になって以来、「自分を愛してあげて」と言われることは稀にあったが、どうしてもできなかった。

 「自己を愛する」ということが、何か後ろめたく、自己中心的な考えのように思えたからだ。しかし、妻が教えてくれたこの考え方なら、「自分を愛すること」は、「家族を愛すること」と同じになる。たとえ自分を愛することが苦手でも、支えてくれる家族を愛することはできる。自分と家族がイコールなら、家族を愛することが私を愛することにつながる。これは、新しい発見だった。

 私はできる限り前を向いて、家族と共に闘ってゆく。

 10年間、夫を否定せず支えてきたなんて、素晴らしい女性です。その土台があればこそ、響いた言葉なのかもしれません。ちなみにこの作品のタイトルは「妻の否定」。

 自分が嫌い、自分を受け入れられない、自分を許せない…そんな葛藤を抱えている多くの人に力を与えてくれるメッセージではないでしょうか。


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