コラム・週刊Blessed Life 155
ミャンマーで何が起きているか

新海 一朗(コラムニスト)

 2月1日、ミャンマーで軍事クーデターが起きました。

 日本のODA(政府開発援助)がミャンマー政府に対して実施されていますが、ミャンマー軍はその資金を活用して、中国から武器を購入しています。ミャンマー軍のほとんどの武器(戦車や戦闘機など)は、日本のお金で中国から買い入れたものです。

 そういう背景を知ると、ミャンマー軍に対するイメージをネガティブな感情を抱いて見てしまうのも仕方ないことでしょうが、今度のクーデターは複雑な要因が重なっており、一口で説明するのは簡単ではありません。

 2月1日に、アウン・サン・スー・チー国家顧問および政権の閣僚が国軍によって拘束され、非常事態宣言がなされましたが、それと同時に、ミン・アウン・フライン国軍最高司令官が実権を握ったことに対して、ミャンマー国民は抗議デモを激しく繰り広げました。

 アウン・サン・スーチー氏は1991年にノーベル平和賞を受賞していますが、2016年以降、ミャンマー軍がロヒンギャの人々に対してジェノサイド(大量殺りく)を行うことを容認したとして、彼女に対する評価は難しいものになりました。ノーベル平和賞を取り消すべきだという厳しい声もあります。
 国際司法裁判所に出廷したアウン・サン・スーチー氏はジェノサイドがあったことは否定しながらも治安部隊に行き過ぎがあったことは認めています。

 現在、一般的に考えられているミャンマーの政治的構図は、アウン・サン・スーチー国家顧問が米国に民主化を約束する条件で、米国はミャンマーに経済支援をすることになっています。

 一方、ミン・アウン・フライン司令官は中国と頻繁に交流し、軍事や資源の面で深く結び付いています。言い換えれば、ミャンマーの背後に米国と中国がそれぞれの思惑で関係を持っているという構図があるということです。

 ロヒンギャ殺りくを黙認し容認した経緯があるので、アウン・サン・スーチーに対する軍事クーデターも仕方ないだろうという見方もあると思いますが、ロヒンギャ虐殺の実行犯は、何をか言わんや、ミン・アウン・フライン司令官でした。そのことを知っているので、アメリカはミャンマー軍幹部4人に対して、アメリカ渡航禁止などの制裁を課したのです。

 アウン・サン・スーチー氏は国家顧問ですが、大統領ではありませんから、軍に対する指揮権を持っていません。
 彼女が大統領になれなかった理由は、配偶者(マイケル・アリス、英国人)、子供たち(アレキサンダーとキム、二人の息子)が外国籍(英国)であることから、軍は彼女の大統領就任を拒んだのです。当然と言えば当然でしょう。従って、彼女は国家顧問という限定的な権力に甘んじているのです。

 ミン・アウン・フライン司令官は2013年から軍幹部の地位にあり、発言力は強いと見るべきで、ロヒンギャ虐殺の実行犯ですから、ロヒンギャ問題で今回のクーデターが起きたと見るのは見当違いになります。

 それ以上に考えられることは、中国がインド洋に出るために、ミャンマーを抱き込んでいると見るべき地政学的理由です。

 インド太平洋構想(インド、オーストラリア、日本、米国の4カ国同盟で中国を封じる)に対する中国の反撃です。インド洋の海上覇権を握り、南シナ海の覇権と合わせて、シーレーンを確保するという見方の方がすっきりします。

 従って、アメリカが今回のミャンマー・クーデターに対して、どう出るかが大きな問題となるだろうと考えることが妥当であると、そのように考察します。